今回ご紹介するのは、BMJに2006年に掲載された異色の論文、「Sword swallowing and its side effects」です。
まさかの医学誌で、“剣を飲み込む人”たちのリアルな身体的影響を調査したというユニークかつ真面目な研究です。
Witcombe B, Meyer D.
Sword swallowing and its side effects.
BMJ. 2006 Dec 23;333(7582):1285-7. doi: 10.1136/bmj.39027.676690.55.
PMID: 17185708; PMCID: PMC1761150.
剣飲み込みは大道芸のように行われている曲芸パフォーマンスです。
こちらの動画が分かりやすいかと思いますが、見ている方が肝を冷やしますね。。。
この芸における医学的なリスクについて踏み込んで調べられたことはなく、今回はそちらの疫学調査を行ったものになります。
剣飲み込みとは何か?
剣飲み込み師(sword swallower)は、自らの口から喉、食道、そして胃まで金属製の剣を挿入するというパフォーマンスを行います。
国際剣飲み込み協会(SSAI)では、少なくとも幅2cm、長さ38cm以上の剣を飲み込む技術が必要とされています。
調査では世界16カ国の110人に連絡を取り、46人(約42%)が研究参加に同意しました。
彼らの多くは男性で、平均年齢は31歳、平均的に25歳頃に技術を習得していました。
飲み込んだ剣の本数と長さ
- 飲み込んだ最長の剣の平均:60cm
- 一度に飲み込んだ剣の本数:最大16本
- 過去3ヶ月で飲み込んだ平均本数:43本
驚くべきことに、飲み込んだ剣の長さと身長・体重には有意な相関は見られませんでした。
体格よりも技術が重要だと考えられます。
練習と習得技術の実態
剣を飲み込むまでには、日々の訓練と咽頭反射の克服が欠かせません。
- 指やスプーン、針金などを使い咽頭反射を鈍化
- 首を過伸展させて剣を食道に沿わせる
- 咽頭・食道括約筋の弛緩を習得(無意識領域)
- 唾液やバターを潤滑剤として使用
さらに、剣を胃まで挿入するには、個人の解剖学的特徴(食道の柔軟性や胃の角度)も影響するようです。
身体への影響と合併症
参加者の中で以下のような症状・合併症が報告されました:
- 咽頭痛:19人(特に複数本や練習時に多発)
- 胸の痛み:演技後に数日続く例あり
- 咽頭・食道の穿孔:6人(うち3人が手術)
- 出血:16人(軽度の下血から輸血が必要な例まで)
- 医療費:3例で合計23,000~70,000ドル
剣の形状が特殊だったり、複数本を無理に挿入したり、演技中に気が逸れたことが原因になることが多かったとのことです。
死亡例は本研究では報告されていませんが、インターネット上では死亡事故の噂も存在すると記されています。
内視鏡損傷との比較
内視鏡も咽頭や食道を通過するため、同様のリスクがあります。
1868年の最初の内視鏡は剣のような構造をしていたとの記録もあり、穿孔リスクのある部位は現在でも注意が必要です。
- 医原性穿孔は、病変に近接した部位や咽頭・食道移行部で発生
- 剣による損傷はより下部(食道下部~胃)で発生することが多い
つまり、リスク部位はやや異なりますが、過度な力が加わることで起こるという共通点があります。
パフォーマンスの進化と危険性
経験を積んだ飲み込み師は、さらに難度の高い技を行います:
- 剣を落下させる「ドロップ」
- 観客に剣を動かさせる
- 一輪車や水中、釘のベッド上での演技
こうした派手な演出の裏には、日々の鍛錬と多くのリスクが伴っているのです。
この論文は、奇抜に見えるパフォーマンスの裏にある解剖学・生理学・習得技術・合併症を医学的に捉えるという非常に興味深いアプローチでした。
もちろん、この記事を読んで「剣飲み込みに挑戦してみよう」と思う方はいないと思いますが(笑)、人体の可能性と限界を見せる一例として、ぜひ記憶に残していただければと思います。
ですが健常者がパフォーマンスとして行う剣飲み込みと治療目的の内視鏡を比較する点や、剣飲み込みのリスクについての注意喚起が乏しい点については少し疑問を感じました。
この研究を通して何を伝えたかったのか、どんな展望があるのかが見えてくるような構成にしてほしかったというのが正直な気持ちですね。
せっかく独自性の高い面白い研究だったので、そちらが余計に残念に感じました。
本日はこの辺で、ではでは。
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