今回は「こういうことだったのか!! 一般医療者の生き残りの気管挿管」を読んだ感想を書いていこうと思います。
まず最初に申し上げておくと、本当に素晴らしい一冊です。
「一般医療者」が「非麻酔科医」という意味かと思いますが、それにしてはやや難易度が高め(良い意味で専門性が高いということ)です。
逆に言えば救急科後期研修医や集中治療フェローにとっては必読の一冊に躍り出た印象を持ちます。
おそらく麻酔科の先生からしても学びがかなりあるのではないでしょうか。
ネタバレというか営業妨害にならないよう、出版社で見られるチャプターごとにコメントという形にしていきます。
- CHAPTER 01 本書を読み進める前に
- CHAPTER 02 RSI? modified RSI? 自発呼吸温存? 意識下挿管?
- CHAPTER 03 輪状軟骨圧迫とBURP は違う
- CHAPTER 04 直接視型喉頭鏡の基本理論
- CHAPTER 05 若手医師教育において直接視型喉頭鏡の扱いをどうすべきか
- CHAPTER 06 バックアップビデオ喉頭鏡が必要なのでは?
- CHAPTER 07 ビデオ喉頭鏡の普及は日本と海外において別経路をたどった
- CHAPTER 08 新型携帯型ビデオ喉頭鏡の登場
- CHAPTER 09 ビデオ喉頭鏡の注意点 深く入れすぎるな
- CHAPTER 10 ビデオ喉頭鏡による軟部組織損傷リスク〜ビデオ喉頭鏡には死角がある〜
- CHAPTER 11 強弯型ブレードの実際
- CHAPTER 12 強弯型ビデオ喉頭鏡で語られるテクニック〜弱弯型ビデオ喉頭鏡ユーザーも知っておきたい〜
- CHAPTER 13 気管チューブ・スタイレットの形をどうする問題
- CHAPTER 14 スタイレットを抜くときも注意が必要
- CHAPTER 15 気管チューブ先端形状を意識しなければならない
- CHAPTER 16 Can visualize cannot intubate 現象を考える
- CHAPTER 17 Sniffing position
- CHAPTER 18 Ramp position
- CHAPTER 19 気管挿管に不慣れなすべての医療者にすすめたい体位 BUHE・HELP
- CHAPTER 20 GEB を使いこなせ
- CHAPTER 21 GEB の親戚・チューブエクスチェンジャー
- CHAPTER 22 GEB や気管チューブエクスチェンジャーの注意点は中心静脈カテーテル留置の注意点と同じ
- CHAPTER 23 気管支ファイバースコープ挿管
- CHAPTER 24 かなり難しい経口気管支ファイバースコープ挿管
- CHAPTER 25 意外に簡単な経鼻気管支ファイバースコープ挿管
CHAPTER 01 本書を読み進める前に
自分は今まで誰がやってもダメなDAMに出会ったことがありません。
ただし自分や周りの救急医ではどうにもならず、麻酔科の先生に助けてもらった経験は何度かあります。
今まで働いた麻酔科の先生と話していても、正直気道管理に関しては一線を画していると思います。
もちろん救急医も経験は多いですが、麻酔科には勝てません。
集中治療医も意外と手技をする機会は少ないですよね。
麻酔科医がDAMと感じるとしたら、それは本当の本当のDAMと言えるでしょう。
CHAPTER 02 RSI? modified RSI? 自発呼吸温存? 意識下挿管?
ここでは挿管戦略の名前の違いや定義について解説してくれています。
救急医であれば概ね知っている内容ですね。
意識下挿管について記載がありましたが、これは非常にエキスパートの手技になるので別でまた記事を作っておこうと思います。
本当に奥深いですが、個人的には非麻酔科医は可能な限り行うべきではないと考えています。
あまりに難しくリカバリーが効かないと思っているからです。
CHAPTER 03 輪状軟骨圧迫とBURP は違う
このチャプターが買ってよかったポイントの一つ目です。
ふんわりと理解していた内容がここまで言語化されているものを初めて見ました。
また全く異なる輪状軟骨圧迫とBURPを兼ねるという発想も知らなかったので、非常に勉強になる内容でした。
CHAPTER 04 直接視型喉頭鏡の基本理論
この内容はまさに自分が初期研修医時代に教わってきたものだったので、非常に理解しやすかったです。
CHAPTER 05 若手医師教育において直接視型喉頭鏡の扱いをどうすべきか
CHAPTER 06 バックアップビデオ喉頭鏡が必要なのでは?
これも買ってよかったポイントです。
なぜならまさに自分の悩みであったからです。
やはり直視型の「気道の直線化」をイメージすべきなのか、時代に沿ったビデオ喉頭鏡で手技が出来ていればよしとすべきなのか常に悩んでいました。
明らかに「ビデオだから入った」症例が多すぎると思っていたからです。
そのため自分は直視型喉頭鏡も使えるように指導すべきか悩んでいました。
故障などで困ることもあるかもしれませんし。
ですが「ビデオ型を複数配置する」という対応策は、自分の中では目から鱗でした。
「使える新しい技術を利用する」という当たり前の文句を聞くと、変に斜に構えることなく「正しいビデオ喉頭鏡の使い方」を教えることを大事にすべきと気付かされました。
おそらくこの発想が無いと「俺の時代は直視型で云々」という老害になり、若手から嫌われるところでした。
ビデオで対応が難しい症例については、救急科や麻酔科などの一部の修練を受けた医師が対応すれば良いですからね。
もちろんその中には直視型の教育も含まれると思います。
CHAPTER 07 ビデオ喉頭鏡の普及は日本と海外において別経路をたどった
CHAPTER 08 新型携帯型ビデオ喉頭鏡の登場
どれも知らない話で勉強になりました。
後述されていますが、強湾型って独自の難しさがありますよね。
正直、自分はその手技が苦手です。。。
CHAPTER 09 ビデオ喉頭鏡の注意点 深く入れすぎるな
非常に反省しました。
自分はわりと迷う時にはブレード4を選んでしまっていたのですが、良くなかったのですね。
安直に「大は小を兼ねる」と思っていたことを猛省しました。
ブレードが深くなるのはあるあるだなあと思います。
自分も深いところでゴソゴソしてるので、「とりあえず現在地が分からなかったら引き返すんだよ?」と研修医にはよく話しています。
食道挿管の頻度も今は少ないですが、勘違いするケースがあるんですね。
今まではウッカリか本当に難しい症例か、と思っていましたが考えを改めました。
CHAPTER 10 ビデオ喉頭鏡による軟部組織損傷リスク〜ビデオ喉頭鏡には死角がある〜
CHAPTER 11 強弯型ブレードの実際
ここからのチャプターが特に中堅の気道管理を行う非麻酔科医には必読と思われます。
きちんとこの内容を理解している人、ほとんどいないのではないでしょうか。
必ずしも間接視だけではなく直視も併用すること、分かって無いと思います。
手元を全く見ないで終始画面と戦っている若手、とっても頻回に見ます。
正しく指導するきっかけ、根拠になりそうです。
CHAPTER 12 強弯型ビデオ喉頭鏡で語られるテクニック〜弱弯型ビデオ喉頭鏡ユーザーも知っておきたい〜
これが本書で一番感動したチャプターでした。
というのも「Sacrifice the view」が、自分が今まで失敗してきた原因を言語化したものだったからです。
特にp79の図表がまさに答えですね。
今まで上手く誘導出来ず代わってもらった際に、麻酔科医の方がviewは悪いことがありました。
その時に質問したのですが、「この方がルートは見えてるから」と言われ「??」と腑に落ちていませんでした。
今回、その疑問が氷解して非常に気持ち良いです。
この失敗している救急医、絶対にいると思うのでここだけでも読んで欲しいですね。
CHAPTER 13 気管チューブ・スタイレットの形をどうする問題
ビデオ喉頭鏡の方が難しい点もある、というメッセージが強烈でした。
ここを分かっている医師がきちんとビデオを使いこなせているのだなあ、と思います。
自分もホッケー型が好きというか、そのように教わってきたので当時の指導医に恵まれていたなあと感じました。
CHAPTER 14 スタイレットを抜くときも注意が必要
ここも素晴らしい内容でした。
おそらく多くの医師はスタイレットを少し抜くテクニックは使っていますが、意味は分かっていないでしょう。
慣習的にやっている人がほとんどかと思います。
自分も跳ねさせることで、というのは知っていましたがここまで言語化はできませんでした。
またスタイレットの抜き方に違いがあるとは全く知らず、看護師教育という意味でも大事なことだと考えさせられました。
CHAPTER 15 気管チューブ先端形状を意識しなければならない
ベベルの話はGEBを使う時に大事になるので聞いたことはありましたが、ここも詳細すぎて感動しました。
パーカー気管チューブなるものを初めて知り、ここまでこだわったデバイスがあるのかと驚かされました。
CHAPTER 16 Can visualize cannot intubate 現象を考える
これがチャプター12にも通じる内容です。
視野が良いことと挿管しやすいことは別物になります。
特に「見えてるのに入らない現象」はしばしば経験しますが(特に強湾で)、このようなテクニックや概念を理解しておくと落ち着いて対応できそうです。
CHAPTER 17 Sniffing position
CHAPTER 18 Ramp position
CHAPTER 19 気管挿管に不慣れなすべての医療者にすすめたい体位 BUHE・HELP
Sniffing positionも首が硬かったり外傷だったりで、必ずしも行えない場合もありますね。
そこまで拘らなくても良い(害になるため)という考え方は斬新でした。
Rampもエビデンスで諸説あるという認識だったので、大きな間違いと知り恥ずかしくなりました。
今後は自施設でもBUHEやHELPをトライしていきたいと思いました。
弱点は小柄な医師だと、届かなくなり手技が行いにくい可能性がある点でしょうか。
全例とは言わずカードに入れておくことが大事そうです。
CHAPTER 20 GEB を使いこなせ
CHAPTER 21 GEB の親戚・チューブエクスチェンジャー
CHAPTER 22 GEB や気管チューブエクスチェンジャーの注意点は中心静脈カテーテル留置の注意点と同じ
GEBも困った時に使ってみると、形状が今ひとつで使えないことがありました。
形状の裏技、知らなかったし見たこともなかったのですが、次からやってみようと思います。
GEBやチューブエクスチェンジャーは、なるべく低リスク症例でも使用していくことが大事ですね。
いざという時に不慣れでは困りますから。
そもそも喉頭展開せずにチューブエクスチェンジャーを使うことも見ますが、それもイマイチです。
そのような細かな疑問が全て書かれており、本当に良い書籍だなあと感心させられます。
CHAPTER 23 気管支ファイバースコープ挿管
CHAPTER 24 かなり難しい経口気管支ファイバースコープ挿管
CHAPTER 25 意外に簡単な経鼻気管支ファイバースコープ挿管
提示されている声門が遠い症例って本当に怖いです。
DAMは予想もしない時に現れますからね、できる準備や勉強は必須です。
またディスポは高いので使用する時に罪悪感を抱いていたのですが、破損リスクについては考えたことがありませんでした。
確かにもはやディスポだけの方が良いのかも、と非常に考えさせられます。
自施設でどうしていくか、今後考えていこうと思います。
また小指ブジー法など、非常にキャッチーで使い勝手の良い手技も気前よく書籍に書いてくださり本当に最後まで内容が詰まったチャプターでした。
以上です。
繰り返しですが、本当に素晴らしい本です。
ある程度の挿管機会がある医療者は必読の一冊かと思います。
本日はこの辺で、ではでは。
コメント