今回は診療報酬制度の点数を変更することや加算についての影響についてです。
より良いと言われる治療が確立すれば、その治療を行うことに国が診療報酬加算を付けるのは当たり前に見えますよね。
これによって患者にとって正しい治療が行われ、患者の経過が良くなるというのが理想です。
では果たして医療制度を変えることで、現場はそのまま動いてくれるのでしょうか。
ここで日本における心筋梗塞に関するお話を取り上げようと思います。
Ikemura N, Sawano M, Ueda I, Fukuda K, Kohsaka S.
Consequence of reimbursement policy alteration for urgent PCI in Japan.
Lancet. 2018 Jun 2;391(10136):2208-2209. PMID: 29893216.
心筋梗塞の一部のタイプであるST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction;STEMI)については、早期の血行再建術が有効と言われています。
STEMIは心筋がon goingで死んでいる状態なので、そのタイミングで急いで詰まった血管を広げて再開通させるというのは理にかなっていそうですね。
世界的なガイドラインでは病院到着後から開通させるまで(door-to-balloon)を90分以内にすることが推奨されました。
そしてこの趨勢を受け厚生労働省も2014年4月に「心筋梗塞患者」に対して90分以内で血行再建術を行った際に、病院収益として3500$(35万円相当!!)の加算を付けることにしました。
これにより日本での90分以内達成割合は改善したのです。
さて、これでめでたしめでたしでしょうか?
実はこの一方で予期せぬことが起こったのです。
まず一つ目に不必要な早期の血行再建術が増加しました。
本来、早期の治療に意味があるのはSTEMIという一部の限られた心筋梗塞のみです。
ですが厚生労働省の規定は「心筋梗塞」と広い定義にしたため、本来早期での血行再建術が不要な患者も含んでしまっていました。
そのため必要な患者での早期血行再建術も増加したのですが、必要性の不確かな心筋梗塞患者においても大きく件数を増やすことになりました。

当然リスクもある処置ですので、やれば良いわけではありません。
さらに言えば国際的にはどんどん行わなくて良い方向に知見が集まってきています。
国が主導して不要な医療介入にインセンティブをつけてしまったことになるのです。
そして、さらに皮肉なことに大事な院内死亡率については変わりがなかったのです。
これはSTEMIかどうかを問わず、リスク因子で調整しても結果は変わらなかったとのことでした。
もちろんアウトカムは死亡率で良いのか、ということもありますし、調整したリスク因子も記載ないので全てを鵜呑みにして良い情報ではありません。
しかし不適切な診療報酬改定により加算がつけられ、不要な緊急の処置が増えていたことは事実でしょう。
日本においては特にカテーテル室へのアクセスがよく、重要な点は病院到着してからの開通時間ではなく、救急隊接触してからの開通時間かと思われます。
要するに病院到着してからはではなく、来るまでの時間も含めて短くしないと意味がないということです。
2025年現在、まだK549 経皮的冠動脈ステント留置術の項目に「(イ) 症状発現後 12 時間以内に来院し、来院からバルーンカテーテルによる責任病変の再開通までの時間(door to balloon time)が 90 分以内であること。」と明記されています。
これは現場の医療を分かっている人が政策立案側にいれば防げたような気もしますので、非常に残念です。
もちろん厳密にはSTEMIではなくとも、急いで行うべき緊急血行再建術もあるので、確かにこれで正しいと言えば正しいです。
ただ不要な症例がここまで増えてしまうのは明らかに問題ですね。
今後、どのように変わっていくのか経過を見守っていこうと思います。
本日はこの辺で、ではでは。
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