今回はちょうど今、右室梗塞患者のEcpellaを担当しているため右心機能不全のある場合でのECMO離脱について話そうと思います。
離脱時の右心評価は色々ありますが、今回は特にpump-controlled retrograde trial off(PCRTO)について扱った文献です。
Weaning adult patients with cardiogenic shock on veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation by pump-controlled retrograde trial off
Lowell Ling, Kai Man Chan
Perfusion. 2018 Jul;33(5):339-345.
PMID: 29409389
VA-ECMOの離脱は定まったコンセンサスはない。
しかし早期の抜去による循環悪化でのECMO再導入は著明な合併症や死亡率上昇へ繋がる。
多くはVA-ECMOのフローを0.5-1.0L/minまで下げ、エコーや循環動態から判断する。
だがこの最低限のフローでも右室にとっては前負荷が減った状態になり、完全に評価することは出来ない。
離脱評価する方法としてarteriovenous bridge(AVブリッジ)がある。
これなら一時的に患者をECMO回路から外すことが出来る。
しかしECMOのクランプが必要になるため、回路内血栓のリスクが極めて高くなる。
そこで2013年に新生児呼吸不全に対してpump-controlled retrograde trial off(PCRTO)という手技が報告された。
PCRTOではポンプをゆっくりと落としていき、血流を逆流させる。
ポンプがある程度の抵抗となりSVRが急激に落ちることなく、AVのシャントを作ることが出来る。
逆回しにすることで適切な右室前負荷が加わり、右心機能を評価できる。
さらにsweep gasもオフにすることで、自己肺の機能も確認できる。
実際のプロトコルとしては、以下の通りになる。
まず下肢送血をクランプし回路から外し、生食 3ml/hの圧バッグで繋いでおく。
続いて15-20U/kgのヘパリンを投与し、ACTを220-250秒まで延ばす。
なおこのACTは経験的な報告によるものである。
そして送血フローのセンサーを逆向きにして、ポンプをゆっくり下げていく。
ここで逆向きのフローが0.5-1.0L/minとなれば達成である。
エコーや血行動態の評価を行い、1時間後で基準を満たしていればECMO離脱に耐えうると判断される。
基準項目はMAP、カテコラミン使用量、BE、酸素化になる。
今回、後方視的に香港の施設でPCRTOを行った7症例について検討を行った。
全ての症例で血栓合併症はなく、循環動態の悪化なくECMOは離脱できた。
4症例は生存退院、2症例は神経学的合併症で1症例はICU退室後のVFにより死亡した。
微小血栓は肺へ行き着くため、十分な抗凝固は必要である。
PCRTOにより左心の後負荷は下がり右心の前負荷は上昇する。
今回2例はTAPSE 3mmと3.6mmの症例で、このような重度の右心機能不全にはPCRTOは適しているだろう。
いかがだったでしょうか。
他にもcase seriesがあり(PMID: 37012220)、概ね同じ内容でした。
違った点としては
・外した下肢送血を圧のモニタリングラインとする。
→どうせ詰まらないようにするため圧ラインは必要です。橈骨にも入っているので、別に繋げなくても良いかと。もちろん閉塞してないか確認するという意味ならアリかもしれませんが。
・凝固はAPTT 1.5-2.5倍に延ばす
→個人的にもAPTT指標できちんと通常管理より長めにしたいですね。術後症例など出血リスクがある場合には難しくなりそうです。
・手当たり次第にPCRTO
→血栓リスクは増やすので、本当にここまで必要かは疑問です。
なおELSO Red Bookを見ると、AVブリッジとPCRTOが通常の古典的離脱に併記されていました。
明確に推奨などはなさそうな感じです。
AVブリッジは接続の時の空気が怖いですが、回路自体は高回転にできるので守られますね。
一方でPCRTOは空気は気になりませんが、シンプルに血栓が怖いです。
個人的には通常の人は普通に抜けば良いと思います。
右心不全がありきちんと評価したい症例ではリスクを勘案してトライという感じでしょうか。
特に肺塞栓や右室梗塞などの内科疾患は凝固延長させてもリスク低いですし良さそうですね。
心外術後などは出血怖いので気になります。
報告では普通に術後も入っていましたが。
さて皆様の施設ではどうされていますでしょうか。
コメント頂けると幸いです。
本日はこの辺で、ではでは。
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