今回はかねてより書きたかった、ERでの急性腹症についての考え方について記事にしました。
エビデンスに則って書いているところもありますが、特にこの領域はscience & artというか教科書通りの事が正しいとは限らないと思っています。
ですのであくまで自分の考えている事、という内容ですがもし参考にして頂ければ嬉しいです。
はじめに

例えばこんな腹痛の男性が受診しました。
どんな事を考えて、どんな所見をとりどんな検査を進めますか?

あるいはこんな女性でしたらどうでしょうか。
ぜひ考えてみてください。

さて耳タコかもしれませんが、腹痛だろうが胸痛だろうがまず大事にするのはABCの異常です。
とは言っても「ABC+α」の部分って非常に大事かと思っています。
ABCの対応をしつつ、+αの内容によって大きく舵きりは変わりますし、そこで1番臨床医の腕が問われるように感じます。
もしその+αが腹痛であれば、造影CTで診断できる疾患も多いです。
例えば動脈瘤破裂での出血とかはどこかで意を決して造影CTに行かないと永遠に診断がつきません。
安定化してからCTがもちろん原則ではあるのですが、エコーや臨床状態から画像を撮らないと先に進めないものが想定されればリスクを承知で造影CTに行く時もあります。
ちなみに腎機能は造影CTを躊躇する因子には、もはやならないと言われています。
もちろん一応は腎排泄で腎臓に負荷をかけますし、確かに造影剤腎症を起こすこともあり得るでしょう。
ただ今の腎機能障害がもしかしたら造影剤を使わないと診断できない病態かもしれませんよね。
そうであれば腎臓に負担をかけてでも造影をしないと、治療に進めないのです。
例えば心筋梗塞の時には、腎機能なんて誰も気にせずカテしますよね。
それは部分的には害と分かっているけれど、必要性が圧倒的に勝るから行います。
極端な例で言えば急性腹症の評価で点滴取るのと同じです。
点滴って痛いし部分的には異物が入るし無いに越したことは無いですが、当然必要だからやります。
この辺りのメリットデメリットのバランス感覚があると良いなと思います。
OPQRSTは使える?

腹痛診療の問診で非常に重視しているのが、このOPQRSTのフレームワークです。
一つずつよりもいくつかペアで考えた方が良いかと思います。
思考停止でこの情報を聞くのではなく、何を目的としてこの項目を聞くか意識すると良いですね。

まずOとTです。
特にOnsetで「突然発症かどうか」が重要かと思います。
寝ている時は難しいのですが、「痛くて目が覚めた」と「目が覚めたら痛みに気が付いた」は似て非なる病歴です。
前者は突然発症として対応したいですね。

そしてなぜOnsetにこだわるかと言うと、これは非常に診断に近づく重要な情報だからです。
以下のようにTROPで表される病態が突然発症パターンとして有名です。
Torsion(捻れる)
Tear(裂ける)
Rupture(破れる)
Obstruction(詰まる)
Perforation(穴が開く)
Penetration(貫く)
これの素晴らしいところは一気に診断へ近づけることと、さらに重症のものが多いということです。
つまり簡単な聴取にも限らずメリットの大きい、お得な(?)問診情報とも言えます。


PとQについては、実際のところどこまで診断に生きるかは難しい面もあります。
一応管に関係すると間欠的な痛みになると言われますが、なかなか訴えが難しいです。
若くてはっきりしている人であれば、少し管関係を疑うくらいですね。

RとSはこれで診断と言うよりも、身体診察に向けての情報収集という側面も強いです。
痛みはどう推移しているのか、本当に今は過去の痛かったところは平気なのか。
もしかすると痛みが移動したのではなく、単に広がっているだけのこともあります。
経過をきちんと聞くためにも重要な情報です。
逆にこれで関連痛らしい情報が拾えると、非常に大きいですね。
触診でのコツは?

当たり前に聞こえますが、診察は低侵襲なものからです。
学生時代のOSCEでも視診→聴診→打診→触診と教わりましたね。
きちんと痛い場所を認識し、そこを避けるようにして診察していきます。

たまに本人はすごい痛がるものの、圧痛が全然無い事があります。
実際に出会うと非常に違和感を覚えますし、患者さん自身も困惑しています。
これは決して詐病ではなく、血管病変などの管系ではよくあることです。
きちんと圧痛があれば、それは体性痛として評価できますね。

さきほどの「診察は低侵襲」という当たり前が1番破られているのが、腹膜刺激徴候の評価かと思います。
具体的には反跳痛って必要かな?ってことです。
見たいのは「腹膜に炎症があるか」なので、打診だけで十分ですし、あるいは咳嗽してもらったり、体を揺らすだけで分かることすらあります。
もちろん深いところの場合には少し押し込んで打診するとか、テクニックはいります。
ただ古典的な反跳痛の出番は相当に限られると思っています。
検査は何がある?

実際に検査をするとしたら、自分ではこんなオーダーを入れます。
(血ガスを入れ忘れてました、お恥ずかしい。)
結構広めに見えちゃうんですが、急性腹症は仕方ないかと思っています。
肝胆膵に関しては採血情報はかなり有益ですし、凝固もどうしても必要になってきます。
あとは異所性妊娠を考えての妊娠検査ですね。
細かいですが「異所性妊娠の疑い」とすれば保険適応、そうでなければ自費検査になってしまいます。
自分は尿管結石は腎盂腎炎に至っていなければ尿検査は不要と考えているので、一般的な尿検査は含めていません。

そしてよくあるのが、採血が全然問題ないパターンです。
これは別に想定済みで、あくまで肝胆膵の検査前確率がどれくらいかを推し量るためにとっています。
あとは急に切開とかすることになるときの評価目的の凝固とか。
結局、大動脈緊急症とか致死的なものでも採血異常なしってこともありますので。
・・・と言うとよく「D-dimerがあります」と言われます。
自分が出していない理由は、日本のD-dimerの多くは低感度のためです。
海外で推奨されているD-dimerは高感度Elisa法であり、日本では採用しておらず低感度のものも多いです。
高感度の鋭敏な指標であるD-dimerでわずかな凝固線溶イベントを拾い上げる!という目的なのに、それが低感度だったら意味ないですよね。
さらに言うと解離とかはIMH(Intramural Hematoma:大動脈壁内血腫)と言いますが、血管自体と交通しないイベントもあります。
つまり解離は高感度のD-dimerでも見逃すことがあり得るのです。
逆に言えば肺動脈血栓塞栓症(PE)とかは見逃しが起きにくいので、高感度D-dimerの使い所かと思います。
まあ、高感度D-dimerが使える病院はめっちゃ限られますが。。。
画像検査は必要?

これが今回伝えたい1番のメッセージです。
原則として急性腹症は画像評価、しかも造影CTが必要です。
これは遥か昔のCope先生の教えもそうですし、2024年のNEJMからの急性腹症の診断戦略においても強調されています。


もちろん全例ではありません。
例えば病歴と所見から明らかにウイルス性腸炎と分かったり、検査から尿管結石と診断できたりすることもあります。
この場合は造影CTは不要でしょう。
エコーが特に活躍するのは重症での腹腔内出血のベッドサイド判定や腹壁の薄い小児、あるいは右上腹部と意外に限られると思っています。
優れた検査機器ではありますが、正直に言うとエコーだけで完結することは稀です。
そして「CT行く前にエコーをしておいてよかった」という症例はさらに限られます。
自分の中ではあくまで腹部エコーは付加的なものであり、CTが前提として的確な診断に近づけるという位置付けです。

逆に自分が造影しないかもなのはこの辺りです。
妊婦や小児、腎機能障害、アレルギーはもちろん避けられるなら避けます。
これは不要な検査はしないという一般論に準じています。
ただし診断のために必要であれば、どちらが勝るかを考えて実施することもあります。
あとは意外と肥満の方は想定疾患によっては、単純CTでサクッと分かってしまいます。
もちろん分からなかった時には、必ず造影を追加することが大事です。

・・・っていうのが外行きの意見で、本音はこちらです。
これらの要素を総合的に考えて、「今この瞬間にCTが必要か」を考えています。
多いケースは今必ずしも診断せずとも、時間を味方につけることで不要な検査を減らせるかもってパターンです。
漫然とした経過観察でなく、具体的な疾患群や障害臓器を想定した上で根拠をもって期間を決めて様子を見ることを提示するようにしています。
鎮痛はして良いの?

痛みをとると所見がマスクされる、という都市伝説があります。

少なくとも成人に関しては腹膜刺激徴候や診断に必要な情報を落とすことなく、鎮痛により患者の苦痛をとれたというデータもあります。
一応オピオイドでも入れて良いとありますが、自分もさすがに診断前にオピオイドは勇気が入ります。
さすがに腹部所見が消し飛びそうですので。。。
このような研究は健常な若者を対象にしているので、自分たちがよくみる高齢者では当てはまらない可能性があることにも注意です。

では仮に痛みがなくなったらどうすれば良いでしょう。
答えは簡単で「変わらず原因を考える」です。
「痛くなくなったから帰宅」というプラクティスをよく見ますが、あれって不思議ですよね。
例えば釘を打ち込まれた人が鎮痛薬で痛みが無くなったら、治療せずに良いんでしょうか?
痛み止めが切れればまた痛くなるのは必至です。
例えば投薬せずとも改善した、とかならまだ分かりますけど。
なるべく原因と診断にこだわる姿勢を持つようにしていきましょう。
終わりに

これらは冒頭の症例です。
左は突然発症で自発痛があるのに圧痛がないパターンで、SMA塞栓症などを考えます。
右は若年女性の突然発症パターンで、異所性妊娠破裂などに注意です。
個人的には男性医師にはなかなか本当のことを話しずらいと思うので、その心理的障壁も含めてお伝えし妊娠反応検査は閾値を相当低めにして出しています。
これは賛否が分かれると思いますので、あくまでも自分のプラクティスという意味合いです。
さて一連の説明を受けると、これらの疾患の見え方が少しクリアになったのではないでしょうか。
診断学は非常に奥深く難しいですが、臨床における醍醐味でもあります。
また取り扱っていこうと思います。
本日はこの辺で、ではでは。

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