「キシロカインアレルギー」と言われた時の対応

論文関係

今日は日常臨床での疑問について答えていこうと思います。

もし縫合処置が必要な患者さんが受診して「過去に局所麻酔薬のキシロカインを使ってアレルギーが出たことがある」と言われたら、どうしたら良いでしょうか?

キシロカインは極めて使用頻度の高い局所麻酔薬です。

使えない、となるとかなり処置において困る機会が多そうですね。

まず大事なことには「本当にキシロカインアレルギーかどうか」を確認することになります。

これは決して患者さんの主訴を疑うというわけではなく、科学的根拠に基づいた意見です。

キシロカイン製剤自体でのアレルギー反応は極めて稀と言われています。

こちらの文献でもIgEを介したアレルギー反応は、報告された有害事象の中でも1%未満と推定されています。

Br J Anaesth. 2012 Jun;108(6):903-11.

多くのアレルギー以外の原因としてはこちらの図の通りです。

精神的な反応、手技に伴う疼痛自体への反応などが挙げられています。

そのため「起こった有害事象が本当にアレルギー反応らしいか」の聴取を改めて行う必要がまずあるわけです。

それを確認した上でも、皮疹や掻痒感を伴うなどアレルギー反応らしい時にはやはり使用は難しいでしょうか。

おそらく実臨床の現場においては、この時点ですぐの使用は難しいと言わざるを得ないでしょう。

ただこの中にもまだキシロカインを使用できる患者層はいます。

というか多いという意見もあります。

それはキシロカインではなく、製剤の添加剤によりアレルギー反応が起きている可能性があるからです。

特に有名なのはメチルパラベンなどの防腐剤です。

キシロカイン製剤でも添加剤が入っているものと、入っていないものがあります。

そのためキシロカインアレルギーではなく、メチルパラベンアレルギーだった場合にはポリアンプ製剤などの添加剤が入っていないものを選択すれば良い訳です。

とは言っても実際の現場で試す勇気はないですよね・・・

ですので、自分であれば「キシロカインアレルギーではない可能性」があることを伝えた上で、今回の受診後に皮膚科へ繋ぐようにします。

キシロカインという鍵になる薬剤が本当に使えないのかは、必要時でない時に皮内テストなどできちんと評価しておく必要があるからです。

そして喫緊の処置に対する方法もいくつかあります。

①違う種類の局所麻酔薬を選択する

報告としてジフェンヒドラミンを使用するというものがあります。

骨格がキシロカインに似ており、局所麻酔薬としての効果もあるそうです。

ただ鎮痛効果は少し劣ることと、採用している病院が限られている点に注意が必要です。

Acad Emerg Med. 1996 Mar;3(3):228-33. 

自分の現在の所属施設にも、採用はありませんでした。。。

②違う骨格の局所麻酔薬を選択する

局所麻酔薬は以下のように、大きくエステル型とアミド型に分かれます。

エステル型:ベンゾカイン、プロカイン、ブタカイン

アミド型:リドカイン、ブピバカイン、メピバカイン、ロピバカイン

例えばアミド型でダメなら違う型に変更する、といった形でしょうか。

一応、同じ型の中でまとめて皮内試験を行なっても、リドカインでしか反応しなかった報告もあり(やはり添加剤の影響?)、変更する意義はゼロではなさそうです。

J Dent Anesth Pain Med. 2021 Dec;21(6):583-587.

ただリスクはあるので、いきなり試すのは少し怖いですかね。

③局所麻酔薬を使わずPSAに切り替える

最終手段でもはや鎮静してしまうという大技ですね。

使いやすいのはケタラールだと思いますが、外来患者での使用は禁忌と添付文書に明記されているので1泊は経過観察入院にしなければいけないのがデメリットです。

院内倫理委員会を通している施設ならば問題なく使用できると思います。

他の薬剤だと遷延して物理的に帰れなくなる人が発生しそうなので、薬剤選択は難しくなりますね。

今回の本題からは逸れるので、割愛しておきます。

いかがだったでしょうか。

いずれにしても重要なことは「キシロカインアレルギーは非常に稀」であることを認識することです。

本物のアレルギーに対して薬を使うなんて絶対あってはいけませんが、キシロカインは偽が多く、しかも患者に与える治療制約も大きいです。

その場は最悪PSAで急場を凌ぎつつ、必ず皮膚科へ繋ぎ皮内テストなどで本当に今後も使用を避けるべきなのか評価してもらうよう紹介してあげるのが救急医の務めと言えるでしょう。

本日はこの辺で、ではでは。

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