くも膜下出血の管理に関するガイドライン@2023

論文関係

本日は11年ぶりに改訂されたくも膜下出血(Subarachnoid Hemorrhage:SAH)のガイドラインについて扱っていきます

全ては膨大になるので、一部のみ抜粋して記載していこうと思います

2023 Guideline for the Management of Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association

Brian L Hoh, Nerissa U Ko, Sepideh Amin-Hanjani, et al.

Stroke. 2023 Jul;54(7):e314-e370.

10のtake home messages

①経験豊富なスタッフのいる施設で早期に介入をすること

②再出血をきたすと予後は悪くなるため、可能なら24時間以内に動脈瘤の治療を行い再出血のリスクを下げること

③チームや本人、家族とのSDMにより血管内治療か外科的治療かを決定すること

④多臓器の合併症は予後を悪くするため標準的な人工呼吸器患者管理、DVT予防などを行うこと

こまめな循環モニタリングは恩恵があり、体液管理が過剰になり臓器障害をきたすのを避けて正常体液量を維持すること

ルーチンでの抗線溶薬(トラネキサム酸etc)の使用は機能的予後を改善しない

⑤SAH後の新規の痙攣発作に対しては7日間の抗痙攣薬の治療が推奨される

予防的な投与は推奨されないが、高リスク患者(MCAの動脈瘤破裂、脳実質内出血、high grade SAH、水頭症、皮質領域梗塞)では考慮しても良い

フェニトインは死亡率の上昇に関連しているため避けた方が良い

昏睡や神経所見の変動がある患者はNCSEを想定して持続脳波モニタリングを考慮しても良い

⑥Delayed cerebral ischemia(DCI)は重篤な合併症で予後を悪くする

神経所見の変化だけでなく、transcranial Doppler(TCD)やCTAなども血管攣縮を同定することに繋がる

またhigh grade SAHで神経所見が限られている場合には、持続脳波も利用可能かもしれない

⑦早期のニモジピン経口投与はDCIを予防するために有益で、神経学的予後を改善する

ルーチンのスタチンやマグネシウム静注は推奨されない

⑧血圧上昇と正常体液量の維持は症候性のDCIに対して症状の進行を減らすために恩恵がある

しかし予防的な血圧上昇や体液量の増加は行うべきではない

⑨治療後の画像評価は再発や再増大などが想定される場合に有用である

⑩多職種チームによる退院に向けてのリハビリなどが必要とされる


これらはいずれも広く言われている内容が多いでしょうか

一部、最近の臨床試験の結果(URTLA trial etc)を反映しているような印象です

診断

まずOttawa SAH ruleで除外されるか確認

ただしこれは検査前確率が低い患者を除外するもので、SAHは致死的な疾患のため使用は慎重になるべき(Grade 2b)

次に発症時間で分けて6時間以内であれば単純CTのみで診断はほぼつく

6時間以上でCT陰性の場合には、次点として腰椎穿刺を行いキサントクローマを確認する


こちらでは腰椎穿刺の推奨ですが、本邦だと意見が分かれる所でしょう

まずキサントクロミーを確認できる検査機器があるかと言う点と、MRIへの良好なアクセスという観点から、日本ではCT陰性の場合にMRIが行われる傾向にあります

あとは穿刺手技をするのは抵抗がある、というところもありそうですが、自分はむしろ手の届かないMRIにいる方が怖いなあと思いますので、その点よりは検査精度の問題でしょうか

まあ、今腰椎穿刺を行なっている施設ってほとんどないと思います

外科的治療と血管内治療の適応

Grade 1の項目は以下の通り

・aSAHに対して可及的に速やかに、なるべく発症から24時間以内に外科的or血管内治療を行う

・破裂した動脈瘤を完全に抹消することが再出血や再治療の必要性を減らす

・後方循環系のaSAHに対してはコイリングが適している

・実質内血腫の影響で意識が悪く、救命可能と思われれば緊急の血腫除去術は死亡率を低下させる

・前方循環のgood grade aSAHにおいてコイリングとクリッピングはどちらも適応があるが、1年後の機能的予後を改善するためコイリングが推奨される

外科的治療と血管内治療の区分について

70歳以上の高齢者ではコイリングが好まれるが、根拠となるデータは無い

一方で40歳未満であれば長期生命予後の観点からクリッピングの方が利点が大きい

コクランと4つのRCTからなるメタ解析ではコイリングがクリッピングに対して1年後の機能的予後(mRS 0-2)で勝り、死亡についてもRR 0.77(0.67-0.87)と優位であった

なおこのRCTで最大であったISATの患者層はコイリングもクリッピングも適応であり97%は前方循環系の動脈瘤で、最多はWFNS grade 1-3であった

しかし5年後の長期成績では両群に差は無かった


動脈瘤の部位や性状、年齢などで適応が変わります

こちらは本邦のガイドラインとも大きく差がなさそうです

DCI管理

推奨のflowは以下の通り

Grade 1の推奨は早期のニモジピン経口投与のみ

その他については

・体液量を正常に維持することでDCI予防および機能的予後を改善する(Grade 2a)

・症候性の血管攣縮が出ている場合には収縮期血圧が上昇することは、DCIの進行を抑えるために妥当かもしれない(Grade 2b)

・症候性の血管攣縮が出ている場合に静注の血管拡張薬を使用することは、DCIの進行を抑えるために妥当かもしれない(Grade 2b)
・症候性の血管攣縮が出ている場合に血管造影を行うことは、攣縮を改善させDCIの進行を抑えることができるため妥当かもしれない(Grade 2b)

・ルーチンでのスタチン、マグネシウム静注は予後を改善せず推奨されない(Grade 3:No benefit)

・DCIリスクに対して予防的に血圧高値とすることは患者への害を減らさず推奨されない(Grade 3:Harm)

各推奨について

・ニモジピンはジヒドロピリジン系のカルシウムチャネルブロッカーで、60mgを4h毎に内服する

過度の降圧がなければ続けた方が良い

・正常体液を維持する事はDCIを予防し機能的予後を改善するために効果的である

・体液量過剰も転機不良および合併症を増やす

・血圧の変動は神経学転帰の悪化に関連するため、高血圧はDCI患者において合理的かもしれない

・血管攣縮の治療には様々な治療があり、様々な薬剤に低血圧を含む副作用があり、これらを無作為化して比較した質の高い研究はない

・重度の血管攣縮患者にはバルーン拡張術を含む血管形成術が選択肢になる

・メタ解析によるとスタチンは血管攣縮は抑制したものの、DCIや死亡率に有意差が無かった

この機序としてはスタチンによる血管攣縮予防の利益が、長期投与で菌血症を起こしやすく相殺してしまうから

・マグネシウムは局所の脳血流量を改善させ、血管攣縮を減少させる可能性が示唆されているがエビデンスでは有益性を示せていない

・DCIと脳血管攣縮のピークは発症後6-10日である

・最近、ミルリノンがDCI予防に使われているがデータは限られており、効果が強心作用なのか血管拡張作用によるものなのかは不明でさらなる検討が必要とされる

比較のため前回の2012年ガイドラインにおけるDCI管理の項目も記載しておくと、、、

・ニモジピン経口投与により神経学的アウトカムは改善する

・予防的な体液過剰は正常体液を維持することと比較して恩恵がない

・脳底動脈への予防的な血管形成術や抗血栓薬投与は死亡率を減らさない

・髄液ドレナージを支持するデータは単一の症例対象研究のみ

・血栓溶解薬の髄腔投与は一部研究に弱点があるが、もう少し良い結果が出ており微小循環レベルでの改善を示すかもしれない

・スタチンは小規模な研究で結果は様々だが、より大きな第3相試験(STASH trial)が進行中である

・エンドセリン受容体-1拮抗薬であるクラゾセンタンはCONSCIOUS-1で血管攣縮を容量依存的に減らしたが、クリッピング術後を対象としたCONSCIOUS-2では転帰の改善は示せなかった

・マグネシウムも第3相試験が行われ(IMASH trial)たが、臨床的有用性は示せなかった


こちらが最も実臨床で施設間差が大きく、管理に答えが無い領域かと思います

前回のガイドラインでも今回も変わらずニモジピンはstrong recommendationのままです

しかし本邦には採用ないため同じジヒドロピリジン系のアムロジン®︎(アムロジピン)やアダラート®︎(ニフェジピン)を使用する施設もありますが、これらはエビデンスは出ていないところです

なぜ他のカルシウムチャネルブロッカーの臨床試験は結果がダメでニモジピンだけが効果があるのでしょうか、詳しい方いらっしゃれば教えて頂きたいです

また最近本邦で使用できるようになったクラゾセンタン(ピヴラッツ®️)は記載が消えましたね、、、

この辺りが日本と海外の温度感の違いを感じるところになります

興味深かったのはスタチンで、今まで自分は推奨度高くないと思っていました

しかし抗生剤の代謝を落としbacteremiaを増やす報告はありましたが、DCI発症は減らしてくれるようです

Front Neurosci. 2021 Oct 25;15:757505.

その結果、hard outcomeには差がないようですが、個別化して感染が気にならなければ積極的に投与すべきなのかなあと考えを改めました

また昔はとにかくvolume多めにして、という管理でしたが本質的ではなく行われなくなってきています

一方でミルリノンを使うというのはCOを増やしますし、確かにいたずらにvolume増やすよりはよっぽど良いかもと感じました

ただ強心薬は命の前借りになることも示されていますので、今後の臨床試験に期待ですね

知見が整理されていて、大変面白い内容でした

本日はこのあたりで、ではでは

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