今回はCHESTからの終末期ケアに関連する意思決定の文献です。
ICUではリアルに発生しうる(というか、あるある?)イベントですね。
文献の概要と最後に自分の考察を書こうと思います。
An End-of-Life Ethics Consult in the ICU: Who Has the Final Say-The Patient or the Family?
Lindsay R Semler, Ellen M Robinson, M Cornelia Cremens, et al.
Chest. 2025 Mar;167(3):825-830.
PMID: 39490970
【症例】
72歳男性、5年前に膵癌と診断されている。
手術を受けたがショックや心停止(!!)をきたし、透析が必要な腎障害を負った。
この入院の後で彼は一番下の息子とhealth care proxy agent (HCP)に、今後決して人工呼吸器は使わないと伝えた。
そして骨転移に対する放射線治療と化学療法を行なったのちに、再度呼吸状態が悪化した。
腫瘍チームは打つ手がなく、人生の終わりの時に至っていると説明した。
酸素需要量が増加し血圧も低下し苦痛が強くなり、集中治療室へ入室した。
そこで彼は改めて下の息子とHCPにdo not attempt resuscitation (DNR)/do not intubate (DNI)について伝え、集中治療医や腫瘍チームも利益がないため意思に同意した。
しかし一番上の息子と本人の兄弟がDNR/DNIを知り、本人が正当な判断が出来なかっただけだと主張した。
ここでHCPは本人の願いであることを説明せず、緩和ケア医は本人へ家族へ説明するよう訴えるも断られてしまった。
そしてDNR/DNIになった3日後に、Full codeへと変更になった。
その後、彼は8日間人工呼吸器を使われ、抜管するも誤嚥により再挿管となった。
彼はさらに自己抜管をしてしまい、家族はやはりせん妄によるものと思っていたが、医療者はそう思っていなかった。
この症例に対するオプションは以下のものがある。
①家族の意向を尊重しfullで対応する
死とは全ての残された者に大きな影響を与える。
終末期における意思決定は本人だけでなく、残された者にとっても非常に難しい。
今回の患者は判断能力もあったが過去に決めたDNR/DNIの意思を家族へ表明することが出来なかった。
もしかすると患者の望みは残された家族たちの関係性を保つためだったのかもしれず、この想いと患者に無益な治療を行いたくない医療者の考えは、いずれも倫理的に尊重されるべき大事な価値観である。
②患者の意思を表明するようHCPに働きかける
HCPには倫理的にも法的にも患者の意向を尊重する責任がある。
仮に本人の兄弟と上の息子が反対していたとしても、本人の決定に同意している下の息子もいるので、医療チームと共に患者本人の意向を尊重できるよう働きかけるべきであった。
③HCPを解任する
HCPが患者の意思を表現することを拒むのであれば、解任することを弁護士に要求し第三者後見人を依頼できる。
しかしこれは時間もかかり、家族とのトラブルになる可能性が高いため推奨は出来ない。
④患者本人の元々の意向を尊重し治療を行わない
今回の患者をDNR/DNIとすることは医療者の間で異論の余地はないが、家族は愛する者を失う悲しみで信頼関係が崩れてしまうかもしれない。
この場合には多職種で意思決定を支援することが重要である。
その後、患者家族から転院の打診を受けた。
危険でもあり勧めなかったが、他の医療機関が最終的に認めてくれた。
ただし条件として「DNR/DNIにして戻さないこと」が含まれていた。。。
家族はそれを了承した(!?)ものの、受け入れ先のベッドはいつまでも空かなかった。。。
そして透析も困難になり、CRRTの開始を家族は相談してきたが、医療チームは適応が無いと判断した。
家族もそちらには同意し、次第に患者は意識が無くなってきた。
兄弟は死を感じICUへ近寄りたがらなかったが、最終的には蘇生を訴えてきた息子がいる前で亡くなった。
非常に難しい症例であり、このようなジレンマに直面する機会はあるだろう。
重要な点は患者の意思や利益を優先しつつ、ジレンマには院内倫理コンサルなど正しいステップを踏み対応することになる。
いかがだったでしょうか。
なかなかのドロドロ症例ですね。
ただし自分のコメントはシンプルで、「これが本人の意向なら最大限尊重するしかないのでは?」と思います。
医学的妥当性があった上での意思決定とは他の記事(以下を参照ください)でも繰り返し話していますが、それでも患者や遺される家族の感情を無下にしてはいけません。
特に今回のように意思疎通もとれているような状況なら、要注意です。
もちろん転移のあるがん患者なので、trajectory curveとしてはほとんど終わりかけであり死の直前なのだとは思います。
ここでのcode statusですが、本人がfull codeの設定にすることで残された家族のためになると本当に思っているなら尊重しても良いかもです。
もちろんECMOとかはなしですし、最低限のACLSで死亡確認にはなるでしょうが。
これを無益と切り捨てる医療者もいるでしょうが、別にICUでやってる医療なんてほとんどがエビデンスありません。
医業はサービス業でもあり、残された患者家族に向けての患者の意思なら尊重するのも選択肢にはなるでしょう。
当然、これは相当に意見が分かれるので自分の一意見であり、施設内での多職種カンファレンスで方針が変わる可能性はあります。
ただ個人的には担癌患者でCPA surviverなので、その時点で相当に予後は短いと思われます。
そこで外来フェーズの時点でしっかりと本人の価値観を聴取するACPを進めて欲しかったですね。。。
こうなってしまうとICUスタッフが不憫でなりません。
「助けられるならなんでもしてくれ」というフレーズは、理解力が足りないわけではなく「需要できていないときに見られる発言の一つ」とも言われます。
こちらの書籍にもよく書かれておりオススメです。
倫理問題は世界共通で難しいですね。
ただ少しずつ体系化されたものが出始めているので、きちんと勉強し患者や家族のQOLを上げられるように努力しようと思います。
本日はこの辺で、ではでは。
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