TAME trial ~心停止蘇生後はCO2高めが良い?~

論文関係

本日はNEJMからのTAME trialについてまとめていきます。

院外心停止蘇生後に対して正常CO2管理とやや高めCO2管理で6ヶ月後の神経学的予後に差がつくかを検討した多国籍大規模RCTです。

〈本論文の一言まとめ〉

院外心停止蘇生後のmild hypercapnia管理では6ヶ月後の神経学的予後を改善させることが出来なかった。

理論的には効果があるはずだが、蘇生後直後の管理や24時間を超えての管理を差別化することが出来れば、臨床試験として差を生み出せるのかもしれない。

Mild Hypercapnia or Normocapnia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest

Glenn Eastwood, Alistair D Nichol, Carol Hodgson, et al.

N Engl J Med. 2023 Jul 6;389(1):45-57. 


Introduction

院外心停止蘇生後患者の低酸素脳症はその後の意識障害や死亡の原因になる。自己心拍再開後、脳の低還流は脳の低酸素や組織障害、ひいては神経学的転帰不良の一因になる。

動脈血二酸化炭素濃度(PaCO2)は脳血管抵抗の主要な調節因子であり、hypercapniaは脳灌流を増やすことが知られている。具体的には1mmHgのPaCO2の上昇で100gあたり、2mlの脳血流を増やすことができる。

さらにこのようなPaCO2に対する血管の応答も心停止後でも残存するとされる。

国際ガイドラインにおいては院外心停止蘇生後の意識障害患者には、normocapniaが推奨されている。だが、これでは脳灌流が保てていないのかもしれない。

そこに答えるために行われた先行研究として、心停止時の脳血流に関する動物実験が行われた。

CMRO2(cerebral metabolic rate of oxygen)とPaCO2は比例関係で、増えれば増えるほどCBFを増やす。

またMAPも比例ではなくプラトーな範囲が大きいが、基本的にはCBFを増やす方向に向かう。

ただPaO2は逆でむしろ低値の際にはCBFが増えて、安定してくると一定になる。

これらを踏まえた蘇生中のCBFの動きが以下の図の通り。

Phaze1:まず心停止により脳灌流と脳機能は共に0になるため、CBFもCMRO2も0となる。

Phaze2:そしてCPRが始まり少し臓器灌流がされると、低酸素やCO2貯留もあり一気にCBFは増加する。これは一過性の過灌流で15-30分程度持続する。

Phaze3:次に脳での酸素消費が少し戻ってくる(CMRO2が上昇する)と、過灌流は終わりむしろ少なめの灌流になる。

Phaze4:脳酸素消費や脳血流が改善して24hほど経つと、研究によるがCBFは少なめのまま推移したり二次性の過灌流をきたしたりする。

この次に行われたのが、以下の二つの観察研究。

①オーストラリア・ニュージーランドでの研究

心停止蘇生後に対してhypocapnia vs normocapnia vs hypercapniaで比較した。

患者背景はこの通り、さらにこの研究は20%ほどが院内心停止を含んでいる点も特徴。残念ながらかなりバラツキがあり、特にhypocapnia群で併存疾患も多く重症度も高い印象であった。

その結果としてhypercapniaの方が死亡は減らさないが、生存自宅退院などを有意に増やすと示された。

②フィンランドでの研究

患者背景としては今回は院外心停止蘇生後のみだが、蘇生までの時間という極めて重要な項目にそもそも大きな差があり。

横がCO2、縦がO2管理だが、12ヶ月後の転帰を考えるとCO2が高い方が有利そうという結後になっている。

そして、上記を受けて行われたのがPhaze2 trialになるthe CCC trial

Phaze 2のためサンプルサイズは少ないが、2群間に統計学的な有意差はなし。なおこちらも20%ほど院内心停止が含まれている。

こちらは入室後のCO2管理について。今回のTAMEでも同様だが、やはり入室直後には差が無いという点が大きなポイント。

大きなアウトカムには差がない。

しかしNSEについては差がついたと報告。

以上の先行研究をもって、PaCO2の高め管理が神経学的予後を良くするのでは無いかという仮説のもとで今回のTAME trialは走り出している。

Methods

デザインは多国籍多施設のオープンラベル、医師主導の大規模RCT。

期間は2018年3月から2021年9月で、17カ国、63施設のICUが参加している。

Inclusion criteriaは

・成人

・院外心停止蘇生後

・20分以上ROSCが維持されている

・意識が晴明でない

・治療制限なくICU入室

・ROSCから3時間以内

ランダム化はブロックランダム化でTTM2への同時組入れが推奨された。

治療者以外は盲検化されている。

CO2はmild hypercapniaで50-55mmHg、normocapniaで35-45mmHg。

これを4時間毎かEtCO2が大きく変化したタイミングで、血液ガスを採取し介入している。

Primary Outcomeは6ヶ月後のGOSE 5-8点と定義する神経学的予後良好群とされた。

Results

患者背景はVF主体で多くがbystander CPRあり(80%)。

ROSCまでも25minほど。

Primary Outcome、Secondary Outcomeのいずれでも有意差はなし。

CO2管理は上記のようになっていた。

Discussion

院外心停止蘇生後にmild hypercapniaにすることは6ヶ月後の神経学的予後を改善しなかった。

早期に脳血流を改善させることで、低酸素脳症を減らすことが出来ると仮説を立てた。

先行研究ではmild hypercapniaの有用性が示唆されていたが、本研究ではそれを示せなかった。

理由としてはinclusionされるまでの3時間以内の両群ともにhypercapniaな状態が、今回の試験の結果を弱めた可能性がある。


さていかがでしたでしょうか。今回の研究ですが、大前提として素晴らしい研究だと思います。生理学的な根拠に始まり動物実験や小規模研究を経て、RCTまで繋がっている綺麗な流れです。10年もの歳月を費やしただけあり、充実した内容だと思います。

ただあえて批判的吟味として、思ったことを書いていきます。

生理学的にPaCO2が高いと脳血流が増えるというのは、示されている通りかと思います。ただそれが神経学的予後と本当に相関するのでしょうか。

今回の研究でも先行研究とされる2つの研究では、患者背景が大きく異なっており「CO2を高くしたから」ではなく「no/low flowを短くできたから」予後がよくなったとは言えないでしょうか。

またPhaze2のthe CCC trialについてですが、こちらもhard outcomeは変えておらず単にNSEを少し下げただけです。これをもって本当に神経学的予後をよくしたと仮定してよかったのでしょうか。

あるいは動物実験の結果を踏まえると、hypercapniaが効果ありそうなタイミングは限られていると思われます。

一番効果がありそうなのは心停止蘇生後の直後ですが、結局その時間帯は差別化できず両群ともに高CO2になっています。また24時間で今回は終えていますが、その後の時間で継続する意義は無かったのでしょうか。神経学的予後判定までの間に少しずつ意識がよくなる症例は経験しますし、実際に今回の引用でもそのように記載されています。

そうならばもう少し長めにhypercapniaを続けても良かったのかもしれないと感じました。

また本論文のCO2管理の表をみると綺麗に二群で分けられているように見えますが、実はこれがトラップでした。こちらはmean(平均値)を示しており、その下に貼ったappendixからの図をみるとmedian(中央値)で記載されています。そして結局目標のCO2を管理出来ていたのはhypercapnia群で4時間、normocapnia群で7時間だけ、という結果でした。

CO2管理は難しいので仕方ありませんが、これでは差を比べるには心許ない印象を受けます。

今回の特に平均値と中央値の見せ方はとても勉強になりました。正直、本論文の見た目を良くするために恣意的に平均値を使っている、というところかと思われます。

今回の論文を読んで思ったこととしては、外傷などICP気にする必要があまりない心停止症例なら、多少はhypercapnia気味に管理した方が良いのかもしれないということですね。

これは臨床試験から示せた内容ではありませんが、生理学的な根拠に基づくとそう言えるかと思います。

今までは蘇生後でアシデミアあれば急いでCO2飛ばして解除を優先していましたが、多少のアシデミアは許容してCO2を吐かせすぎないようにしゆっくりLacの改善などで良くなるのを待つ方が良いのかもしれません。

とても勉強になる良い臨床試験でした。

本日はここまでです。ではでは。

コメント

タイトルとURLをコピーしました