さて今回は妊娠されている方に被曝を伴うような放射線検査を行なって良いのかというテーマについて扱っていこうと思います。
妊娠されている女性が受診した際、当然ですが放射線被曝って気を遣いますよね。
不要な検査は行わないに尽きると思います。
では妊娠されている方が、くも膜下出血や交通外傷に伴う出血の疑いなどでCT検査が必要になった時にはどうすれば良いのでしょうか。
あるいはどのようにリスクを説明した上で検査を進めていくべきなのでしょうか。
まずそもそも放射線による被曝の害はどのようなものがあるのでしょうか。
胎児に起きる事は妊娠週数により大きく変わってきます。
着床前期には流産、器官形成期には奇形や精神遅滞などのリスクが特に高いと言われています。
Congenit Anom (Kyoto) . 2002 Mar;42(1):10-4.
ではこれがどれくらいの被曝で起こるのでしょうか。
同じ文献では死亡が100mGy以上、奇形が100-200mGy以上、精神発達遅滞が120mGy以上が発生の最低値としています。
ではこれを受けるとやはり被曝は怖いので、放射線検査は行うことが難しいのでしょうか??
ここで肝心の放射線検査ごとの被曝量についてお示ししましょう。
これをみて気付かれた方もいるかもしれません。
そうです、意外と低いんです。
左の中央値でみると一番高い骨盤CTでも25mGy、4回撮らないと胎児への影響は出ないことになります。
一方で頭部CTなんて0.005mGy未満ということで、ほとんど胎児への影響は起こり得ないレベルになっています。
では本邦のガイドラインはどうなっているのでしょうか。
日本の産婦人科学会ガイドラインを参照してみました。
産婦人科診療ガイドライン2020
本邦においては妊娠10週までは50mGy、妊娠9-26週までは100mGyをカットオフとして提言しています。
これは一応アメリカのガイドライン(American College of Obstetricians and Gynecologists:ACOG)において50mGy以下の被曝であれば胎児奇形や胎児死亡などの有害事象を引き起こさないとしており、そちらを踏襲しているようです。
報告によっては100-500mGyの被曝でも奇形発生率は増えないとするものがある一方で、>1Gyの高線量被曝では胎児発育不全、小頭症、精神発育遅滞の発生が報告されているものもあります。
つまりまとめると
・50-100mGyまではガイドラインによるが、おそらく被曝による胎児への影響はほぼ無い。
・必要な検査であれば被曝を許容して検査を進めることは妥当とされる。
・一方で問題になるような線量は、腹部や骨盤のCT検査のみだろう。
となります。
そのため当然、患者や家族への説明は重要だが、疑う疾患がありCT が必要ならばきちんと診断をつけるためにもしっかりCT検査を行う必要があります。
むしろ行わない方が害になるので、迷うことなく普段通りに必要な検査は行なっていくべきでしょう。
間違っても「被曝が怖いのでCT撮らずくも膜下主血を見逃した」などということは合ってはいけません。
ただし過去には被曝を理由に中絶してしまったケースなどもあり、十分に心情に寄り添うことは必要です。
いかがだったでしょうか。
突然このようなケースが発生すると困りますが、事前に対応を考えておけると良いですね。
今日はこの辺で、ではでは。
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