今回はNEJMで出ていた敗血症と敗血症性ショックについてのreview論文を読んでいきます。
Sepsis and Septic Shock
Nuala J. Meyer and Hallie C. Prescott
December 4, 2024
N Engl J Med 2024;391:2133-2146
疫学
敗血症は世界的な問題だが、原因、発生率、転帰は地域や年齢によって大きく異なる。
サハラ以南のアフリカや低所得国を中心に、高い死亡率が見られる地域がある。
感染臓器は肺(40-60%)、腹腔(15-30%)、泌尿器(15-30%)、血流、皮膚軟部組織が多い。
原因微生物は60-70%で同定され、グラム陽性or陰性菌が最も多く、真菌感染やウイルス感染が続く。
敗血症はどの年代でも発生するが、頻度は年代により異なる(Fig1)。
世界での発生頻度は5歳未満で多く、60歳以上で著明に増加する。
2017年に敗血症で1100万人が死亡しているが、26%は5歳未満の小児である。
免疫不全が幼児期の発症リスクに関連している。
また併存症(腫瘍、免疫不全、維持透析)などがある高齢者もハイリスクと言える。
免疫調節障害
感染に対する至適な免疫応答はまだ定まっていないが、敗血症は臓器障害により免疫応答の調節障害をきたす。
病原体に暴露することで免疫系が賦活化される。
これらの場合、高度の炎症状態となる(FIg2)。
だが高度の炎症状態が起こる一方で、免疫系の抑制を受ける場合もある。
これは敗血症によるサイトカイン刺激で免疫応答が麻痺してしまう機序もある。
血管調節障害
血管調節障害は敗血症による障害で鍵になる。
ただ生検するのは稀であり、研究は難しい。
血管はグリコカリックスに覆われており、血球や血小板が血管に触れるのを防いでいる。
このグリコカリックスが剥がれ落ちることで、微小血栓などの障害が起こる。
通常は白血球と栄養のみが通過できることで、感染部位へ動員されるようになっている。
これが破綻すると臨床的にはいわゆるサードスペース(間質への体液の流入)が起こり、低血圧状態になる。
動物実験では血管バリアの強化は生存率を上げたが、データは限られている。
この点に注目してプロテインCやスタチンが期待されている。
臨床症状
まず患者は感染による症状をきたし、加えて臓器障害の症状も認める。
ただ初期は症状がわずかなこともあり、早期に発見することは難しい。
またβ遮断薬や降圧薬により、症状がマスクされてしまうこともある。
感染症を見たら必ず敗血症になっていないか、臓器障害がないかを確認する必要がある。
これらの感染臓器を考える一方で、同様に臓器の機能や灌流も評価する。
管理
①感染のコントロール
治療には抗微生物薬と必要があればソースコントロールが含まれる。
当初は原因微生物はわからないので、経験的に広域になることが多い。
ただし過去の情報や培養結果から、情報を集める必要はある。
社会歴は原因微生物の曝露に関連している可能性もある。
特に過去の抗菌薬治療歴がある場合や介護ケアに関わりがある場合には耐性菌のリスクが上がるため、ガイドラインでは広域にカバーすることを推奨している。
逆に言えば感染の原因とならない菌については治療を控えるべきである。
不要な嫌気性菌治療により腸内細菌叢の悪化など、有害事象をきたす場合がある。
適切な治療であったとしても、合併症を減らすためにはソースコントロールが必要なこともある。
抗菌薬治療と同様にソースコントロールも遅れることで死亡率の上昇につながる。
②臓器灌流の維持
乳酸の上昇など臓器灌流が不適切な症例では、早期に介入する必要があり多くの臨床試験が行われている(Table2)。
晶質液の投与は最初の治療とされるが、最近その制限について議論されている。
ガイドラインでは30ml/kgの投与が理想とされている。
過小輸液も過剰輸液も害であることが、観察研究にて示されている。
ただ過剰輸液で害が示されたのは50-70ml/kgを超えるような、大幅な過剰の研究である。
輸液制限については、まず少量の輸液負荷(4ml/kg)かPLRで試すのが良い。
研究によっては制限輸液が良い結果を出しているが、より大きな研究が必要である。
MAPは65mmHgがガイドラインで推奨されているが、60-65mmHgが安全とされる患者層もある。
MAPだけでなく乳酸値やCRTは蘇生や昇圧薬の調整に非常に重要である。
ANDROMEDA-SHOCK trialではCRTガイドと乳酸値ガイドの蘇生群に分けられた。
この際、CRT群のほうが少ない輸液や昇圧薬ですみ、死亡率も低かった。
またストレス量としてのグルココルチコイド(ハイドロコルチゾン 200mg/day±フルドロコルチゾン)を投与することも補助療法としてある。
ステロイド投与で呼吸器離脱やICU退室は短縮されたが、死亡率は変わらなかったという報告もある。
一方で、最近の観察研究ではフルドロコルチゾンも併用したほうが死亡率に良いという報告もある。
そしてピトレシンは非カテコラミン性の血管収縮薬であるが、こちらの至適な投与量についてはまだ大きな研究が待たれるところである。
感想
疫学から基礎研究まで細かい内容が網羅的にまとまっている良い文献でした。
免疫調節や血管障害について色々な薬剤が検討されていますが、まだ定まったものはありません。
自分も余計なものを使うのは嫌いなので、ここで扱われていた期待されている薬の使用感は分かりません。
一方で知見がある薬や介入には詳しくなる必要があります。
まずは輸液量についてです。
制限輸液の文献が敗血症に限らず多くなっていますが、きちんと最低限は入れることが大事ですね。
最近見るのはこの流れを間違って解釈して、輸液全然されていない、、、っていうケースです。
あくまで過剰な輸液が害であっただけなので、必要な量は十分に入れましょう。
そしてステロイドは有名な研究2つについてまとめてみました。
ハイドロコルチゾンに十分な鉱質コルチコイド作用があるはずなのでフルドロコルチゾンの追加は自分はしていませんが、今後はより併用する流れになるのでしょうか。
あとはピトレシンも気になりますね。
0.03U/minって、体格違うのに良いのか?って皆思ってますから。
ぜひ今後の追加の情報に期待したいところです。
本日はこの辺で。
ではでは。
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