「救急車の有料化」について

医学日常

今回は「救急車の有料化」について、世の中の流れと私見を話していこうと思います。

救急現場の実際

世界的には救急車(というか医療行為)が有料の場合も少なくありません。

日本は長らく救急車を無料で使えていましたが、次第に適正利用が叫ばれるようになってきました。

特にコロナ禍では救急要請をしても物理的に出動できる救急隊がいない、なんていう世紀末のような状況にもなりました。

少しコロナは落ち着きましたが、進みゆく高齢化の中で救急隊の負担は増える一方です。

実際、自分も現場で働いていますが、なかなか凄惨なものがあります。

待てるであろう疾患がマイナー科のため、全く搬送先が決まらず県外から収容依頼がかかってくることも。。。

そして困っている人は救いたいですが、中には悪質な利用もあるのも事実です。

そのために救急隊の体力精力が消耗し、本当に必要な症例に影響を与えていることを歯痒く思う医療者は多いでしょう。

松阪市の取り組み

そんな中で話題になったのが、三重県松阪市で始まった取り組みです。

これは令和6年6月1日以降で3つの基幹病院(松阪中央総合病院・済生会松阪総合病院・松阪市民病院)へ救急搬送された場合に、選定療養費を算定するというものです。

よく「救急車の有料化」と言われていますが、厳密には違います。

そもそも医療需要が増えていることを受けて、平成28年に健康保険法が改正されました。

ここでは「200床以上の地域医療支援病院は他の医療機関からの紹介状を持たない初診の患者に対して、診療費の他に選定療養費として7000円以上を徴収する」ことが義務化されたのです。

これはまずは地域の医院や診療所を受診し、必要な患者のみが地域の基幹病院へ受診するシステムを作ることが目的とされています。

ですが通常とは違う救急車での受診の場合には、この過程がうやむやになっていました。

そこで松阪市は、「救急車で受診した患者からも選定療養費をきちんと徴収する」と宣言したわけです。

そのため「救急車の有料化」というのは語弊があり、「本来払うべきだった負担金を正しく払ってもらう」というだけです。

松阪市の行政が出している動画がとても分かりやすいので、是非ご参照ください。

この先進的な取り組みについてきちんとモニタリング結果も報告しています。

三基幹病院等におけるモニタリング結果等(令和6年10月25日)

当たり前ですが搬送数は大きく低下し、医療現場の負担は減っているように見えます。

茨城県の発表

そんな中、さらに激震が走るニュースが出ました。

それは10月18日に茨城県が発表した「緊急性のない救急搬送患者から選定療養費を徴収する際のガイドライン」(救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン)です。

内容は概ね松阪市と同じ取り組みですが、何が凄いかというとこれを県単位で行うということです。

しかも金額は病院が決めて良いので、筑波大学病院では13,200円を徴収するようです!

かなりの搬送数低下に繋がりそうですね。

今後の課題と私見

まずこの流れは茨城県が手上げした事もあり、確実に広がっていくことと思われます。

そしてこれは「有料化」ではなく「抜け道で払っていなかったお金を徴収する」ことなので、極めて妥当でしょう。

理想としてはこの選定療養費をきちんと徴収することで、適正利用に繋がり健全化すれば良いですね。

一方で問題点としては選定療養費が施設により異なるため、患者から医療機関の指定が入りそうということです。

正直、そこまで分かってない人がほとんど(というか分かってるなら、既にその時点で不適切利用の雰囲気あり)ですが、現場の救急隊が余計なトラブルに巻き込まれないか不安です。

医療圏で一律とかにすると良いのですが、難しいのですかね。

あとは軽症患者が減ることばかり強調されていますが、それは当たり前であって。

大事なのは重症患者が減っていないかどうかですね。

こればかりはどうにもなりませんが、まずは本当に悪質というか明らかに不要である方々から徴収するのみに留めるのが無難でしょう。

医学的に外来管理可能でも、体が辛くて救急車を呼んでいるわけですし。

さらに本音を言うと、自分は「有料化」でもいいのにと思います。

やはりそれだけの対価に見合うサービスですし、そのお金を医療現場や子育て政策など他に回してほしいです。

ちちろん段階を踏んで行う必要はありますが、遠方からの搬送になった場合は相当のコストがかかっていますからね。

以上、完全に私見がメインでしたので、一意見として読んで頂ければと思います。

本日はこの辺で、ではでは。

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