ARDSの診断アルゴリズム

論文関係

本日はCritical Careより、ARDS患者に対する診断アルゴリズムについてのレビューです

そもそもARDSってなんぞや?とか、実際この呼吸不全どうしたら良いのかって疑問の答えになる一本でした

〈本論文の一言まとめ〉

ARDSは症候群、原疾患があるならその治療が最優先で基本戦略はそれを探すこと

ARDS単体に対してはできる治療は限られている

A structured diagnostic algorithm for patients with ARDS

Lieuwe Durk Jacobus Bos, Harm Jan de Grooth, Pieter Roel Tuinman

Crit Care. 2023 Mar 21;27(1):94.

呼吸不全によりICU入室した患者はしばしばベルリン定義に該当し、ARDSの基準を満たします

発症時期(1週間以内)、酸素化、胸部Xp(胸水や無気肺で説明できない両側浸潤影)、肺水腫の原因(心不全や輸液過剰で説明できない肺水腫)

しかしARDSの診断を確立してもその治療効果は限られています

エビデンスとしては肺損傷を最小限に抑えること(人工呼吸器誘発性肺損傷や体液過剰など)に留まるからです

しかし症候群としての介入には出来ることが限られていますが、基礎疾患へのタイムリーな介入は転帰の改善に大きな影響を与えます

ARDSが疑われる患者で考慮する必要がある鑑別診断は以下の通りです

・ARDSの診断

診断には酸素化不良と肺水腫の検出から始まり、心原性肺水腫の除外を行う

難しいのは敗血症患者などで過剰の炎症状態で心筋症になりARDSをきたしている場合だが、元々は敗血症なのでこれはARDSとして扱う

・経過ごとの評価

day1-2:

原因や危険因子の早急な特定に努め、治療を開始する

日和見感染症が疑われる場合には早期にCTを実施する

はっきりしない場合には自己免疫関連の血清学的検査を進める(抗核抗体、リウマチ因子、ANCA、筋炎抗体etc)

喀血や顕微鏡的血尿を伴うAKIがあればGBMも提出する

〈手順〉

1.ARDSの原因が肺以外か肺なのか判断

2.肺以外の原因が疑わしければ(敗血症etc)、潜在的な肺疾患をこの時点で探す必要はなく原疾患の治療をする

3.免疫系が正常な患者の肺炎なら最初の48hは侵襲的な診断検査を行う必要はなく、喀痰・血液培養、PCR、抗原検査などで良い

4.免疫不全患者の定義に1つでも該当するか確認

・重度の好中球減少(<500)または長期のリンパ球減少(<1000が7日以上)

・血液腫瘍

・ステロイド長期暴露(プレドニン20mg/day以上が2週間以上)

・臓器移植後

・モノクローナル抗体や免疫抑制剤使用

・CD4 200未満のHIVなどの免疫不全

5.肺炎が疑われる免疫不全患者は胸部CT

6.CTのパターンに応じて気管支鏡で細菌および真菌培養のためにBAL、ガラクトマンナン、呼吸器ウイルス、アスペルギルス、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなどの提出

day3-5:

2日経っても肺炎の原因が示されていなければ、診断を再考する

CTを撮ることで日和見感染症と間質性肺疾患を区別するのに役立つ

また気管支鏡検査をすることで下気道から検体をとれるため、培養にも適している

なお気管支鏡により肺胞が虚脱する可能性があるが、一般的なガイドラインに従っていれば挿管されたARDS患者においてBALは安全とされている

day6-7:

ARDSが5日以上持続すると、繊維化リスクがかなり高くなる

解決しないARDSに対する高容量のステロイド投与については、さまざまな報告がある

少なくとも投与するなら発症14日以内にすることで、人工呼吸器期間と死亡率でメリットがあるかもしれない

これらでも原因が分からない患者では肺生検を考慮する必要がある

ARDSが改善しない場合に診断無しで人工呼吸器管理を長時間行うと予後が非常に悪くなる

そのため危険因子が証明されていない未解決のARDSの全ての患者で、肺生検を検討することが推奨される

外科的には胸腔鏡で行われるが、気管支鏡での凍結生検も代替とみなすことができるかもしれない

生検する際に考慮すべき診断は以下の通り

感染症、結合組織病、薬剤性、好酸球性肺炎、血管炎、異物、瘢痕化、過敏性肺臓炎などが鑑別に挙げられる


しばしばなんとなく呼吸が悪い人を「ARDS」と一括りにされているのを目にします

確かにARDSの定義は満たしていても、それが全てではありません

冠動脈疾患も総称してACS(Acute Coronary Syndrome)と言いますが、治療についてはSTEMIならPCIやCABGでの血行再建ですし、保存的に経過をみる場合もあります

大事なのは背景疾患であり、その検索にこだわる姿勢ですね

では、本日はこの辺で

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