本日は微小循環(microcirculation)についてのCritical Careからの論文です
〈本論文の一言まとめ〉
循環の評価はmacrocirculationとmicrocirculationに分かれる
まずはmacroの管理を行い、何かおかしければmicroの管理について再評価をする
その際にはCO2 gapなどが現場で使いやすいモダリティになるだろう
The future of intensive care: the study of the microcirculation will help to guide our therapies
J Duranteau, D De Backer, K Donadello, et al.
Crit Care. 2023 May 16;27(1):190.
多くのICUがMAPやCOなどを指標にして循環管理を行なっていると思います
その時にそれらが保たれているからといって、循環が保障されていると言って良いのでしょうか?
その際に重要になる概念が微小循環です
組織灌流の指標としてCRT(capillary refill time)や皮膚所見(skin mottling)は重要視されるが、これだけでも不十分な可能性があります
そのため2018年にはESCより微小循環の評価に関するガイドラインが出版されている
Intensive Care Med. 2018 Mar;44(3):281-299.
微小循環における重要な2つの要素は運搬能力(flow)と拡散能力(diffusion)になる
運搬能力は酸素がRBCにより運ばれる流れ、拡散能力はRBCから酸素が細胞へ運ばれる距離を意味する
例えば不必要な輸液負荷により、RBCが希釈されることで運搬能力は低下し、組織浮腫を起こすことで拡散能力も低下する
本質的な循環蘇生の目標としては「組織や臓器への酸素伝達」であり、これは本来微小循環によって達成されるものと言われる
通常、macrocirculationの管理(BPやSV)の先にmicrocirsulationの管理も達成できると考えているが、必ずしもその限りではない
当然、関連はあるので大循環の改善で微小循環もよくなる傾向はあるだろう
だが血性粘度や血管内皮障害、グリコカリックス障害、微小血栓などの複数の要素により、微小循環障害は発生しうる
また輸液過多や昇圧薬の多量使用も微小循環には害となる
そして微小循環障害がAKIの発症と相関していた報告もある
微小循環の評価指標は以下の通り
・CRT
爪床を10秒間圧迫し、離した時に3秒以内に元に戻れば正常
簡便に計測できるが、客観的に評価することが難しい
正確な評価は血清乳酸値と同様に重要と言われている
・造影超音波
RBCと同じ大きさになるようなマイクロバブルを使用し、血液量と微小循環の比などをソフトで計算する
ベッドサイドで測定することが出来るが、測定ごとのばらつきが大きい
・Hand-held vital microscopes(HVMs)
舌の毛細血管ネットワークをベッドサイドで非侵襲的に評価する
ビデオをソフトウェアで解析して、微小循環の状況を数値化する
不均一性、希釈、うっ血、組織浮腫などの微小循環障害の原因を判断できる
・レーザードップラー
光の波長の変化でRBCの速度を算出し、微小循環の指標とする
・MRI
様々なイメージングを組み合わせることで、微小循環の評価となる
リアルタイムの指標ではない
・Nailfold videocapillaroscopy(NVC)
デジタルビデオスコープで8本の指の爪郭の中央にある1mm四方からデータを得る
データの解析が難しい
・Near-infrared spectroscopy(NIRS)
全組織ヘモグロビン濃度に対する酸素化されたヘモグロビン濃度の比率
簡便で使いやすいが、達成すべき目標値が定まっていない
・Plethysmography
パルスオキシメトリーの信号から末梢灌流指数(PI)を算出する
簡便で酸素濃度もモニタリングできる
・Veno-arterial PCO2 gap
macro/microにかかわらず組織灌流障害を評価できる指標
採血をするだけなので、どの病院でも使いやすいのが利点
例えば輸液はショックの初期には微小循環を改善する可能性があるが、過剰になるとSVが増えたとしても静脈うっ血をきたすことで微小循環をさらに損ねてしまう
そのため蘇生の先にはmicrocirculationを見据えた管理が行われるべきである
他の治療法としては
・NO
微小循環の制御に有用と考えられたが、実際に敗血症患者での臓器障害改善は示されていない
同様の意図でプロスタグランジンの影響を評価する臨床試験が現在行われている
・アスコルビン酸
敗血症患者で微小血管灌流を改善するというデータも
・抗凝固系
活性化プロテインC、アンチトロンビン、トロンボモジュリンなどが実験では微小循環を改善した
・アルブミン
抗酸化特性により、グリコカリックスの変化を制限し内皮機能を維持するための選択肢になる
しかしALBIOS trialでは敗血症患者において、利益は示されなかった
いずれも明確な根拠は無い
まとめると、、、
まずはmacrocirculationの管理を行い至適なMAPやSV、volumeを目指す
そこで組織灌流の指標(microcirculation)を評価する
具体的にはLactate、SvO2、Pv-a CO2 gapなど
これらの動きが並行なら、macrocirculationの管理指標で両者ともに問題ない
ただmacrocirculationは良いのにmicrocirculationがダメ(Lactate高い、CO2 gap大きいなど)な場合には、微小循環の管理を検討する
それは例えば輸液負荷、別の昇圧薬(NAd→ピトレシンなど)、微小循環でのHb低下あれば輸血などが手段になる
あるいは血管拡張薬や抗凝固薬も候補になる可能性があるが、定まった知見は無い
敗血症を含む循環蘇生管理において、まずは基本通りにmacrocirculationの管理に努めれば良いと思います
ただ仮にそれでも臓器障害が進む、Lactateが上がり続ける、などある場合にはmicrocirculationの評価も考える必要があります
指標は限られていますが、実臨床で使いやすいCO2 gapやSvO2を見るために静脈血ガス(可能なら肺動脈やIVC/SVCなどの中心静脈から採取)を確認することがよさそうです
その先は全くエビデンスの無い世界なので、もしかすれば輸血が効くのかもしれませんし、もしかすれば輸液が効くのかもしれません
ただ、既に入った輸液負荷のせいで静脈うっ血でmicrocirculationが障害されている場合には、逆効果になります
try and errorで極めてartな領域になりますので、臨床医の腕が問われることになりそうです
今日はこの辺で、ではでは
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