心房細動にマグネシウムって使いますか?

論文関係

今回はよく質問されるマグネシウム製剤の投与について、文献を元に考察しようと思います。

マグネシウム好きな人って救急医に限って多い気がします。

それはとても良い薬にも関わらず、使い勝手の良さがあまり知られていないからでしょう。

ではマグネシウム製剤に手が伸びる疾患と言えば、何があるでしょうか。

ざっと思いつくのは以下でしょうか。

①子癇発作の予防や治療

こちらは有名ですね。

②低マグネシウム血症の補正

低カリウム血症の原因にもなりますので、こちらも有名です。

③Torsades de Pointes

多形性VTの時のマグネシウム製剤も、救急循環器領域ではよく知られています。

④気管支喘息発作

マグネシウムの平滑筋弛緩作用を期待したものですね。

GINAにも記載ありますが、ルーチンの投与は推奨されておらず重症例では考慮とされています。

ちなみに投与に際しては、「マグネゾール」と「硫酸Mg補正液」という二種類の静注製剤があります。

これらは適応が異なっており、マグネゾールは子癇関連限定、硫酸Mg補正液は電解質補正という名目です。

そのため①の場合はマグネゾール、それ以外は低マグネシウム血症という事にして硫酸Mg補正液の使用が好ましいですね。

中身は濃度が違うだけで全く同じなので、正直どちらかにまとめて欲しいと思いますが、、、笑

後日、これらを含めたマグネシウム製剤の全体論についてまとめてみようと思いますが、本日は「心房細動(AF)に対するマグネシウム製剤」という切り口のメタ解析論文を読んでみようと思います。

おそらくあまり使っている方は少ないと思いますが、自分は結構好きで投与することがあります。

Intravenous magnesium in the management of rapid atrial fibrillation: A systematic review and meta-analysis

J Cardiol. 2021 Nov;78(5):375-381.

Tushar Ramesh, Paul Yong Kyu Lee, Monica Mitta, Joseph Allencherri

PMID: 34162502

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AFにおける薬剤選択としてはβ遮断薬が最も使用され、続いて非ジヒドロピリジン系カルシウム受容体拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、ジゴキシン、アミオダロンとなる。

静注マグネシウム製剤はrateとrhythmコントロールをする上で、補助的ないし代替手段とされてきた。

マグネシウムはカルシウムチャネルを阻害し、洞房結節の脈拍を落とし房室伝導時間を延長させる。

副作用はわずかな陰性変力作用があるものの、安価であり複雑な背景疾患のある心不全患者や冠動脈疾患のある患者に使いやすいとされる。

今回の研究では頻脈性心房細動、マグネシウムなどの医学用語で検索し、集めた文献を解析している。

なおrate controlの適宜は90-100未満と定義する文献が多かった。

補助的使用と位置付けているため、そもそも適切な治療が行われていない文献も除外した。

最終的に6個の研究が組み込まれた。

マグネシウム製剤の投与量は3-10gと幅があった。

マグネシウム製剤の投与によりrate controlに関して標準群と比較し、63% vs 40%(OR 2.49[1.80-3.45])、rhythm controlに関しても21% vs 14%(OR 1.75[1.08-2.84])と有意に効果がみられた。

なおサブグループ解析で投与量を5g以下とすると24% vs 13%(OR 2.10[1.22-3.61])となり、5g以上の16% vs 13%(OR 1.23[0.65-2.32])より優れていることが示唆された。

興味深いことにマグネシウム製剤を追加することで抗不整脈薬として振る舞い、他の抗不整脈薬の作用を増強した。

またマグネシウム製剤は部分的にカルシウムチャネルの拮抗作用もあり、これはrhythm controlに使われるⅢ群抗不整脈であるアミオダロンと同じ機序とされる。

副作用も稀であり軽度のものであった。

統計学的に有意であったのは、循環に影響を与えない程度の瞬間的な火照り感のみであった。

今回、なぜ投与量が多い方で効果が劣ったのかは分からない。

ただ過去の研究でも言われているが、マグネシウム製剤の投与には天井効果(ceiling effect)があると考えられている。

そしてマグネシウムは細胞内に偏在する陽イオンであり、血中濃度が必ずしも体内量を反映していない。

そのため血中濃度のみでは、真のマグネシウム動態は分からない。

また今回のAFへのマグネシウム投与は標準診療では無い点も重要である。

ただ今回の研究からはマグネシウムを併用した方が、AFに対してrate controlおよびrhythm controlの両方の観点から優れていることが示唆された。

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いかがだったでしょうか。

要点としては

・マグネシウム製剤はAFに対する標準治療ではない。

・ただ他の抗不整脈薬に追加すると、rateとrhythmの両方の面でメリットがあるかもしれない。

・有害事象はほとんど無いが、投与するなら天井効果もあるので5g未満に留めておくのが無難。

ということかと思います。

自分は多くの場合、介入必要なAFを見つけた場合は何も考えずにマグネシウム製剤を使っています。

それは機序的にメリットがあるのと、有害事象がほとんど無いからです。

よく「血中濃度を確認しないの?」と聞かれますが、意義は乏しいと考えます。

それは血中濃度が体内量を反映しないのと、仮に高値になっても害が少ないからです。

一応、8.4-12.0mg/dLから初期症状として膝蓋腱反射の消失が言われているため、余裕のある時には腱反射確認しています。

それで消失していなければ少なくとも高値では無いので、えいやと入れてます。

害としては呼吸抑制や不整脈(伝導障害)がありますが、そもそも頻脈で困ってる時に使っているので多少はwelcomeな気持ちです。

Up to dateには5mg/dLくらいから注意と書かれていますが、自分の経験では徐脈などになっていたのは10mg/dL超えている症例しか見たことありません。

ですので大体20mlで2g/2.5gのため、2バイアルは投与してしまってます。

唯一の注意は急速投与かと思います。

静注とかすると一過性の高マグネシウム血症になり、大抵の人が嘔吐します。

適当な生食などに溶解して全開滴下が良いですね。

もちろん人工呼吸器が繋がっている患者さんで致死性不整脈で急ぐ場合には、嘔吐による誤嚥リスクも低いので静注しても良いかもしれません。

ということで、長々と語りました。

「使ってみてください」と言う気はありませんが、選択肢として知っておくと損はしないと思います。

本日はこの辺で、ではでは。

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