最近また症例がパラパラと増えてきているように感じるCOVID-19。
しかし2023年5月に本邦でも5類疾患へと変更され、インフルエンザと同等の扱いに変わりました。
果たして本当にCOVID-19流行は終わったのでしょうか?
今回は過去のパンデミックを踏まえた、COVID-19大流行について「終わりがあるのか」というテーマの論文を読んでいきます。
〈本論文の一言まとめ〉
感染症の流行の終わりは、多くは世界経済との兼ね合いから決められてきていた。本当に終わったわけではなく、一部の社会的弱者の犠牲を許容しつつ経済を回していく転換点という意味合いが強い。
Do Pandemics Ever End?
N Engl J Med. 2023 Oct 12;389(15):1349-1351.
Joelle M Abi-Rached, Allan M Brandt
2022年9月にアメリカのバイデン大統領は「the pandemic is over」、パンデミックは終わったと宣言した。
ただ同月には全米でCOVID-19による死亡者は1万人を超えていた。しかし、その宣言の通りに2023年4月には米国における国家非常事態を終了する決議に署名をした。
この動きはアメリカだけではなく、ヨーロッパでも2022年に非常事態の終結を宣言しCOVID-19をインフルエンザと同様に管理し始めた。
今から3世紀前にルイ15世は南フランスで猛威を奮っていたペストの流行の終結を宣言した。
ペストは猛烈な勢いで感染し1720年から1722年にかけて、マルセイユの人口の半分以上が死亡するほどであった。この宣言の目的は商人に商業活動の再開を許可することで、ペストの終息を「国民の喜び」として家の前で焚き火をするように呼びかけるほどであった。
儀式的な法令ではあるが、やはり背後に経済的事情の存在を考えさせるものである。
では法令により疫病は終息したのだろうか。もちろん、そんな事はない。19世紀末に再度のペストの大流行があり、原因であるペスト菌が1894年に発見された。一部の科学者はペスト菌は1940年代に消滅したと考えているが、決してそのような事はない。現在も人獣共通感染症としてアフリカやアジアで伝染している。
ではパンデミックが終わる事はあるのだろうか?
WHOはウイルスの最大潜伏期間の2倍の期間にわたって確定症例や感染可能性症例が報告されなければ、流行は終わったとみなしている。だが今は地球規模で、社会経済的な観点も含めて決定されている。
つまり一定の集団(社会的弱者や基礎疾患のある患者)の死を避けられないものとして受け入れるという考え方が含まれている。そして社会が公衆衛生的な見地に立ち始めた時、パンデミックは終息になる。
このような考え方の例にはインフルエンザ、結核、コレラなどがある。
インフルエンザも1918年のN1H1インフルエンザのパンデミック(スペイン風邪)では世界中で5000万人から1億人の死亡者を出した。しかし、現在もN1H1株は消滅せず、変異株の形で存在している。だが、インフルエンザは社会の中で当たり前のものとして日常化している。
結核も国連は2030年までに消滅させることを目標としているが、低所得国での貧困による栄養失調や不十分な医療、医薬品欠乏、過密住宅環境などが蔓延を許している。なおCOVID-19のパンデミック中に、結核による死亡率がここ10年で初めて増加した。
コレラも比較的簡単な治療であるにも関わらず、紛争地域や貧困地域での発生は続いている。
これらの歴史が語るのはパンデミックの終焉は疫学や政治的宣言でもなく、疾患が日常化することと一部の切り捨てにより死亡率が一定になることである。これがいわゆる「ウイルスと共に生きる」ということ。
パンデミックを終わらせるのは、感染に伴う公衆衛生上の危機が社会の経済において脅威では無いと行政が判断することである。
いかがでしたでしょうか。非常に考えさせられる内容でした。
AHAでは「life is why」と謳い、命の尊さを訴えています。
しかしこのコロナ禍では、それが踏み躙られる経験を何度もしました。
我々医療者は幸い仕事がなくなる事はありませんでしたが、飲食系など仕事を失い生活の基盤が崩れた方も多かったはずです。都内の街並みもあんなに人がいなくなってゴーストタウンのようになったのは、2度と起きないでしょう。
感染して死ぬか、仕事がなくて死ぬか。そんな究極の問いが政府には投げかけられていたのでしょう。
その見地での判断に一市民として何かを言う事はありませんが、それだけ凄惨な状況だったということです。
先日、祖母が亡くなり死生観やどう生きるかを深く考えさせられたため、今回もこのようなテーマを扱いました。
来週からは普通の医学ネタにしようかと思います。
本日はここまで。ではでは。
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