救急医のための脳卒中②~脳出血~

まとめ

さて前回に引き続いて脳卒中シリーズについてまとめていきます。

今回は脳出血についてです。

正直あまり変わり映えもせず、面白みがないと言われてしまうこともある脳出血ですが、ぜひ楽しんでください。

分類

脳出血は大きくテント上出血(被殻/視床/皮質下)とテント下出血(小脳/脳幹)に分かれます。

上か下かでも治療方針が変わりますので、この大きな区分も大事になります。

内科管理

鍵になるのは以下の3つです。

①血圧管理

脳出血ではsBP≦140mmHgとすることが推奨されています。

この根拠となるのはINTERACT trialです。

まずINTERACT-1にて標準治療群(sBP≦180mmHg)と強化治療群(sBP≦140mmHg)に分類したところ、神経学的所見に変わりは無かったものの血腫の増大割合は強化治療群で優位に低いことが示されました。

これを受けてオーストラリアで行われたのがINTERRACT-2 trialで、結果としてはやはり神経学的予後を含むprimary outcomeの改善は得られませんでしたがsecondary outcomeの多くの項目で有意な改善を認めました。

そのため血圧は下げる風潮になっているのですが、下げれば良いかというとその限りでは無いということも知られています。

②脳圧管理

脳出血なら血圧は下げれば下げるだけ良い、と考えられがちですが正しいのでしょうか。

これがまさに上記の臨床試験で血圧をただ下げれば良かった、とならなかった理由です。

脳圧管理には出血を防ぐことも大事ですが、脳灌流を保つという概念も極めて重要です。

というか、一番大事かもしれません。

不用意に血圧を下げすぎると平均動脈圧が低下します。

脳灌流圧(cerebral perfusion pressure:CPP)は平均動脈圧(MAP)から頭蓋内圧(intracranial pressure:ICP)を引いたものになります。

通常の臓器でMAP-CVPが臓器灌流圧になるのと同じ考え方ですね。

そのためMAPを下げ過ぎないこととICPを高くしないということが重要になります。

具体的にはCPP=50-70mmHgかつICP<20mmHgが目標です。

ICP管理にはladderがあり、適宜この項目に沿って介入していきます。

step0何も考えずに行うべき項目です。
ERでは体位や血糖、電解質が特に重要になります。
step1酸素化や換気の管理のために必要があれば挿管管理を行います。
まずは正常のCO2管理が原則です。
step2鎮静鎮痛は基本ですね。
脳代謝需要を減らし、交感神経系を抑制してくれます。
step3水頭症になっている症例では、脳室ドレナージが有効です。
step4浸透圧利尿薬として米国では高張食塩水とマンニトールの使用が一般的です。
グリセロールはマンニトールほどICPを下げられないと言われています。
ただリバウンド現象でICPがまた上昇してくるのはマンニトールの方で起こりやすいので注意は必要です。
step5これがややこしいのですが、長期間の過換気療法は脳虚血を誘発するので害になります。
ただ例えば手術前など、一過性に脳圧を下げたい時には過換気にすることでICPを下げる事が出来るので候補にはなります。
step6体温を下げることでICPを下げられますが、ここまでやることは少ないですね。
step7バルビツレートも劇的にICP下がると言いますが、自分は使用経験が1度しかなくあまり分かりません。その症例ではICPが高過ぎて(60mmHg…)もはや効果ありませんでした。
step8最終手段で減圧開頭すれば、理論的には下がらないことは無いはずですね。

これらの技を駆使してなるべく非侵襲的な介入でICPを下げていく事を目指します。

③凝固補正

血小板については諸説あるのですが、10万以上とするものもあります。

また抗血小板薬を飲んでいる場合には「ダメな血小板」になるわけですが、その状態での血小板輸血はあまり良いデータはありませんでした。

抗凝固薬の拮抗については下記のものが有名です。

ケイセントラは高額ですが特にワーファリン服用者では、救命に直結する可能性がある介入になり得ますので必ず理解しておくと良いでしょう。

一応DOACに対しての拮抗薬もあるのですが、極めて高額で採用も限られているので今回は割愛します。

手術適応

手術介入により転帰が改善した因子が以下の通りです。

ある程度の血腫量で重症すぎず軽症すぎない人が、良い適応になってくるようです。

各出血ごとに解説すると

〈被殻出血〉

血腫量や神経所見から判断されます。ただ血腫量が多くても若年と脳萎縮のある高齢者では全く変わってきます。血腫量が多くても、萎縮のある高齢者は逃げられることが多いです。一方で若い人では、血腫除去の頻度は多いですね。

〈視床出血〉

神経核が集中しているため、アプローチは難しいとされています。

〈皮質下出血〉

早期である程度の血腫量であれば、血腫除去を行うことで予後が良い傾向が示されています。

ただ6ヶ月後の臨床転帰には有意差がなく、実臨床でも血腫除去の頻度は稀な印象を受けます。

〈小脳出血〉

後頭蓋窩は狭いので、圧迫による影響を受けやすい部位になります。そのため小脳出血では血腫径3cmが介入の目安とされています。

〈脳幹出血〉

血腫除去の適応はありません。

さていかがだったでしょうか。

ただ血圧下げて終わり、とされがちな脳出血ですが、ICP管理など考えるとできる事が実はたくさんあります。

是非、明日からの診療に生かしてみてください。

本日はこの辺で、ではでは。

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