今回からは3回に分けて、救急集中治療領域のエコーについてお話していこうと思います。
まず第1回はTCD、眼球エコー、肺エコーについてです。
総論
1816→2011と言われて、何を意味するのか分かる方はいるでしょうか?
1816年は地球の平均気温が 0.4-0.7度低下した深刻な異常気象により、「夏のない年」として知られています。
火山活動契機に起こり、深刻な食糧不足をもたらしました。
そんな苦しい時代にルネ・ラエンネック先生が作り出したのが聴診器なのです。
そして約200年の時を経て、NEJMに有名な論文が掲載されました。
ここに初めて「ultrasound stethoscope」と明記され、”超”診器と言う用語が出現したのです。
以降はその簡便性と非侵襲性が相まって、Point of Care UltraSound(PoCUS)は一大ブームとなっています。
今回は臓器別に非専門医が知っておくと役に立つPoCUSについて触れていこうと思います。
Transcranial Doppler(TCD)
まずTCDですが、こちらはセクタプローブで頭蓋内の血流速度を測定する検査です。
これによりSAHでの血管攣縮の評価や、頭蓋内圧の推定に使うことができます。
描出の仕方は上の画像の通りです。
一番骨が薄い側頭骨から覗き見て、willisの動脈輪を想像しながら中脳を描出します。
出せたところでカラードプラーをかければ波形が出てきます。
難しいですが後方循環系でも描出は可能です。
測定値の意味はこのようになっています。
特に気にしてみているのは平均流速(MFV)と血管抵抗の指標になる拍動指数(PI)です。
異常値は年齢や血管により異なります。
実際に臨床症状が出る前に血管攣縮を同定できた報告もあります。
また正常付近であればPI×10がICPに概算されるため、有用です。
CPP管理の鍵になる項目のため、神経集中治療領域では必須の考え方と言えるでしょう。
ICPが極端に上がると波形が乱れ、最終的にはto and flowと呼ばれる行ったり来たりの波形になってしまいます。
ICP 60mmHgくらいの症例を経験したことがありますが、その時でもここまではいきませんでしたね。。。
眼球エコー
実はエコーで眼科診察をすることができます。
一般的に安全とされるエコーですが、眼球においては害になり得るため注意が必要です。
特に放熱しにくい水晶体にとっては、帯熱してしまうため白内障リスクが上がってしまいます。
そのためリニアプローべの眼球プリセットを選び、なるべく短時間で終わらせることが求められます。
TCDでのPIのように頭蓋内圧を推定する方法に視神経鞘を使うこともあります。
研究によってカットオフに幅はありますが、ある程度高値であれば有用な可能性が高いと言えるでしょう。
他にも眼科疾患として眼内異物、水晶体脱臼、網膜剥離、硝子体出血などは、一発診断に至ることもできます。
肺エコー
気胸を見つけるためにレントゲンを撮ることが多いと思います。
ですが体位によって見つけやすさは変わり、仰臥位では腹側に溜まってしまうため500ml程度の空気が無いと分からないこともあります。
そこで有用なのがエコーで、レントゲンよりも検出感度が優れています。
当てる時にはBモードを使用し、胸膜が動くlung slidingを確認します。
なおlung sliding陰性だけでは確実に気胸とは言えないことに注意が必要です。単に片肺挿管で換気されていなかったり、無気肺だったりの可能性もあるからです。
一番良いのはlung pointと呼ばれる、境界点を同定することになります。
ただ実際は難しいことが多く、左右差を含めた臨床所見で判断することになるでしょう。
肺エコーのABCというフレーズがあります。
Aは空気によるartifactで健常者や気胸で見えます。
Bは小葉間隔壁の浮腫で垂直方向にartifactが見えます。
Cは潰れた肺実質を見ているので、肺炎や無気肺の時によく見えます。
なおB lineにも2種類あり、小葉間隔壁の肥厚とすりガラス影を見分けることが出来ます。
有名なプロトコールにBLUE protocolがあります。
ただこちらは300例の診断が付いているICU症例から後方視的に作っているので、雑多なERや診断が付いていない段階で応用出来るかは別問題と言えます。
なので前述のABCを理解してエコーをすることが重要でしょう。
コロナ禍においては、なかなか画像検査にも行けなかったので病勢や経過の指標としても使われました。
腹臥位やECMO導入の判断材料としても使用できます。
あるいは呼吸器離脱の評価にも使用されました。
Bラインが肋間の50%未満で1点、50%以上で2点、コンソリデーションで3点とされます。
この合計値が13を超えれば、抜管失敗を予測するというものです。
自分は抜管前にここまで評価したことが無かったのですが、今度悩ましい症例では使用してみようと思います。
さて、いかがだったでしょうか。
次回は心エコーについて、かなり掘り下げて話していこうと思います。
ではでは。
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